****** 教会は、ヘブル的ルーツとつぎ合わされることで回復し、完成します。******

「努力して狭い門から入りなさい」とは

45. 「努力して狭い門から入りなさい」とは

【聖書箇所】13章18節~33節

ヘブル的視点から聖書を読み直す

はじめに

  • 「イエスはユダヤ人でした」と聞かされて、特別、驚くクリスチャンは少ないと思います。しかしイエスがユダヤ人であるとすればイエスはヘブル語で語られたということを意味します。今日までイエスはアラム語で語ったと言われてきましたが、近年ではヘブル語で語ったとされています。ダマスコ途上でパウロに語りかけたイエスのことばはヘブル語だったと聖書が証言しています(使徒26:14)。パウロもヘブル語で人々に語りかけています(使徒22:2)。
  • イエスがヘブル語で話されたとするなら、ヘブル的表現、ヘブル的慣用句、ヘブル的(ユダヤ的)背景をもって語られたということです。ところが私たちが読んでいる聖書の原典はギリシア語で書かれています。つまりイエスの語られたことばがヘブル語からギリシャ語に翻訳されているわけです。ギリシア語で書かれている新約聖書、特に共観福音書は編纂される前にその資料となったものが存在したことは確かです。それが現在の福音書の中に散りばめられていると考えるのは自然です。ちなみにルカは福音書を「すべてのことを初めから綿密に調べ・・順序を立てて書いて」(1:3)います。元になった多くの資料があったのです。
  • 今日、ヘブル的視点からイエスの言葉を理解しようする流れが起こって来た背景には神の導きがあります。
    ①ユダヤ人の離散
    A.D.70年にローマ軍によるエルサレム神殿の破壊によってユダヤ人は完全に離散してしまいました。つまりキリストの歴史において離散した各地でユダヤ人は排斥され迫害されたためにヘブル語さえも日常のことばとしては使えなくなりました。
    ②置換神学
    またユダヤ的なものを一切排除した「置換神学」によってヘブル的視点から聖書を理解する道は閉ざされてしまったのです。
    ③ベン・イェフダー、イスラエルの建国、死海写本の発見、等
    しかし、ベン・イェフダーという人が2千年間眠っていたヘブル語を復活させるという壮大な奇蹟的事業に着手したのです。しかも1948年、奇蹟的にイスラエルが建国した後は、この取り組みは国家的事業となり、今日、イスラエルではヘブル語で話されています。その他、死海文書の発見等を通してイエスの語られたことばをヘブル的視点から見直すことが研究されるようになってきています。

1. 「努めて狭い門から入りなさい」というイエスのことば

  • 13章24節の「努力して狭い門から入りなさい」というイエスのことばに興味を引きました。前後の文脈を考えるなら「努力して」ということばが不自然に感じられたからです。イエスは実際にどういう意味で語られたのだろうと思って調べてみました。多くの日本語訳を見るとどれもみな「努力する、全力を尽くして、懸命に」という意味で訳されています。それもそのはず、原文のギリシャ語は「アゴーニゾマイ」αγωνιζομαιという動詞が遣われており、その語義は「競技で勝敗を競う、福音のために苦闘する、獲得しようと努力奮闘する」ことだからです。
  • 使われているギリシア語の語義がそうであったとしても、そこでの文脈は神の国について「からし種」と「バン種」の二つのたとえが語られた後です。前者のたとえはきわめて小さくてもやがては全地を支配するようになることを意味し、後者は目には見えなくてもやがては内に拡大する力をもっていることを表わしています。神の国は今は小さく、目に見えずともやがては全地をおおうほどに拡大することが語られた後に、先のことばが語られています。「狭い門」が意味するのも同じです。狭い所に大勢の者が押しかけることで狭き門というのであれば、「アゴーニゾマイ」αγωνιζομαιでも構わないはずです。しかしここで言われている「狭き門」とは「それを見出す者がきわめてまれであるという意味です(マタイ7:13~14も参照)。とすれば、「努力して」という言い回しはどうみても不自然です。

2. イエスの真意は「マイノリティ・コンプレックス」に対する励まし

  • そこでヘブル語の新約聖書ではどう訳しているかを調べました。するとそこに当てられているヘブル語は「アーマツ」の強意形ヒットパエル態の命令形「ヒットアンメツー」(הִתְאַמְּצוּ)です。この動詞は励まし用語です。有名な「強くあれ、雄々しくあれ」というフレーズがありますが、ヘブル語で「ハザク・ヴェ・エマーツ」と言います。後者の「エマーツ」אֱמָץが「アーマツ」אָמַץの命令形です。これは「雄々しくあれ」という激励用語です。このフレーズが語られた背景には、目に見える敵に対する「恐れ」がありました(ヨシュア記1:9)。しかし、ルカの13章24節のことばの背景にあるものは、マイノリティ・コンプレックス。つまり、マイノリティ(少数であること)に対する恐れです。ルカ12章32節にも「小さな群れよ。恐れることはありません。あなたがのたの父である神は、喜んであなたがたに御国をお与えになるからです。」とあります。小さいこと、少ないことを恐れる者に、イエスは神の国は、将来、必ず実現することを語り、「多くの者たちが見向きしないことであっても、勇気をもって神の国を求め続けることを堅く決心せよ」と励ましているのです。
  • 「寄らば大樹の陰」ということわざがあるように、だれでも大きいことや多いことは安心でき、良いことだと考えます。ですから、多くの者たちがそうした門から入り、そうした道を歩もうとします。しかしイエスの言われるのはそれとは逆です。多くの者たちが見向きしない門、注目しない道を歩むためには、マイノリティー・コンプレックスに陥ることなく、常に「雄々しく」あることが必要なのです。ここは「努力して」というよりも、「雄々しくあって」と理解する方が自然な気がします。しかもここの命令形はギリシャ語では現在形で記されています。ヘブル語の時制は完了と未完了の二つしかありませんが、ギリシア語の時制はきわめて厳密です。ということは、常に、継続的に「雄々しくあり続ける」ことが命じられているのです。
  • このようにヘブル語の視点から見るとき、「獲得しようと努力する、奮闘する」と訳されたギリシア語とは異なったニュアンスとして受け取ることができます。

3. イエスの言う「狐」の真意とは

  • これから記すことは、「主の祈りのユダヤ的背景」(ブラッド・ヤング、ダヴィッド・ビヴィン著、河合一充訳、ミルトス社、1988、)に取り上げられているもので、やはりイエスのことばヘブル的視点から解釈しようと試みています。「ことばの文化的背景の違い『きつね』の例」としてその本の95~101頁にあります。そこから私なりにまとめたことを記します。

「努めて狭い門から入りなさい」ということばを取り上げましたが、その同じルカの福音書13章32節にもユダヤ的背景から理解するとこうも違うのかという例がイエスの口から発した「狐」という表現(比喩)です。コンテキストはイエスのもとに何人かのパリサイ人が近寄って来て、「ヘロデがあなたを殺そうとしています。」と進言したことばに対してイエスの言葉は「行って、あの狐にこう言いなさい。・・預言者がエルサレム以外の所で死ぬことはありえない・・」でした(13:31~33)。

「狐」というイメージ(先入観)は「ずる賢い」というものです。しかしここでイエスが使った「狐」のユダヤ的イメージは「狡猾な」という意味の他に、「小心者」という意味があります。つまりずるさの「狐」ではなく、「小心者」という意味の「狐」という意味で使われたということです。ヘロデなんかにわたしを殺すような脅しを実行する力はないという意味で、彼の無能を指摘することば、彼の身のほどを思い知らせることばとして「狐」という言葉を使ったのです。

  • このように理解するならば、「狐」と「預言者がエルサレム以外の所で死ぬことはありえない」の表現がより強く結び合います。
  • このように、イエスの語られたことばを正確に理解しようとすれば、イエスの存在したユダヤ的背景を無視することはできなくなります。それを日本という文化の文脈の中でそのまま受け止めと、真意のねじれが起こることは言うまでもありません。ボタンのかけ間違いが起こらないためには、語られたことばの背景を知ることが重要になってきます。
  • すでに使徒パウロはエペソ人への手紙で神の「奥義」を語っていました。その奥義とはユダヤ人と異邦人とが共にキリストにあって「共同の相続人」となるというものです。イエス・キリストの十字架は両者の間にあった隔ての壁を打ち破るものでした。そして神の目がみれば、平和がすでに実現しているのです。そのキーワードが「新しいひとりの人」です。ユダヤ人と異邦人が「共同の相続人」であるとは、キリスト教会とユダヤ人がひとつにされなければ、教会そのものが完成しないことを物語っています。神の計画によれば、ユダヤ人の民族的救いは必ず実現します。すでにその準備が本格的になされつつあります。したがってキリストにある教会はユダヤ的背景、ヘブル的視点から聖書を再解釈しなければならない時代に来ているのです。ユダヤ人(メシアニック・ジュー)の聖書解釈からの流れを大切にしていかなければなりません。したがって新約聖書、とりわけ共観福音書の理解において、これからはヘブル語の知識は不可欠な時代となって来ると思われます。

2012.3.24


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