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「建てる」ことに専心したソロモン

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32. 「建てる」ことに専心したソロモン

【聖書箇所】Ⅱ歴代誌 8章1節~18節

ベレーシート

  • この8章には「建てる」という動詞「バーナー」(בָּנָה)が多く見られます。すでに6章でも、この「建てる」という言葉が多く(11回)ありました。そのうちの半分が「わたしが建てた主の宮」という表現で使われています。ここ(8章)では、主の宮ではなく、ソロモンが王として統治するイスラエルにおいて、自分の宮殿も含めて、統治上必要なさまざな町々や倉庫、建物といった建造物が建てられたことが記述されています。8章での「建てる」という動詞は8回です。ソロモンには建てたいと思う建造物が多くあったようです。多くの建設事業ができるということは、その背景に莫大な経済力を必要とします。まさにソロモンの治世においてはそれが可能な時代だったと言えます。

1. ソロモンの建てた建造物

ソロモン王国.PNG
  • ソロモンには建てたいと切に願っていたものが多くありました。主の宮が7年、宮殿が13年、あわせて20年間かかって建て終わりました。これだけでも大事業でした。エルサレムは全イスラエルの首都として華麗な変貌を遂げたのです。
  • その大事業が終わってから、ソロモンはイスラエルの各地にさまざまな建造物を建てて行きます。ツロのフラムから木材を提供された見返りとして与えた土地(町々)を、フラムが気に入らず返却したその所に町々を建て直しています(1節)。
  • イスラエルの北方(ダマスコの北東230キロのところに)にタデモルという町を建て、またハマテにも倉庫の町々を建てています。「倉庫」と訳されたヘブル語は「ミスケノート」(מִסְכְּנוֹת)で、本来、要塞の町を意味します。戦争時の補給基地という意味でもあります。いわば、ソロモンは戦いに備えての基地を作っているのです。
  • さらには、エルサレムから北西19キロほどの所にある上ベテ・ホロンと、そこからそらにさらに北西3キロほど離れた下ベテ・ホロンにも、しっかりとした「城壁と門とかんぬきのある防備の町々」を建設しています。他の場所にも、倉庫(補給基地として)の町々、戦車のための町々、騎兵のための町々を、エルサレムやレバノンなど、いろいろな領地に建てたいと切に願っていたのです。これらはすべて、平和を維持するための防備的・戦略的な町々の建設でした。
  • こうしたことはソロモンのみならず、統治者であるならばだれでもすることです。ダビデは「宝物倉,ぶどう酒の倉,油の倉」を町々村々に建てています(Ⅰ歴27:25‐31)。ヨシャパテもユダに倉庫の町々を建て(Ⅱ歴17:12)、ヒゼキヤも「穀物,新しいぶどう酒,油の収穫のための倉庫」を造ったとあります(Ⅱ歴32:27‐30)。
  • ソロモンの場合、建設の工事に携わったのは、ヘテ人、エモリ人、ペリジ人、ヒビ人、エブス人たちでした。そして、その工事は「苦役」であったとあります(8:8)。その苦役(「マス」מַסの複数形)は、かつてイスラエルの民がエジプトで苦しめられた過酷な労働を意味しました(出エジプト1:11, 13)。
  • 戦力的に必要な町々だけでなく、平和的政策のために、パロの娘が住む邸宅が建てられています。パロの娘は他の多くの王妃たちの代表的存在と言えます。そこは神殿の六倍の大きさでした。

2. ソロモンの霊性と父ダビデの霊性の違い

  • 父ダビデは周囲の国々と戦い、その戦いに勝利してイスラエルに勝利と平和をもたらした「神の人」です。しかしダビデの息子であるソロモンは戦いをしていません。Ⅱ歴代誌8章3節に「ソロモンはハマテ・ツォバに出て行き、これに打ち勝った。」とありますが、これは「出向いて行って、そこを守りを固めた」というニュアンスです。原文は「強くなる」という意味の「ハーザク」(חָזַק)が使われています。ソロモン王国の土台はすべて父ダビデによって備えられているのです。
  • 父ダビデと息子ソロモンの霊性を比較する時、以下のようにまとめることができると思います。

画像の説明

  • ソロモンとダビデの霊性の違いは、ソロモンが「建てる」(「バーナー」בָּנָה)ことに心を傾けたのに対し、ダビデは「住む」(「ヤーシャヴ」יָשַׁב)ことに心を傾けたということです。ダビデの霊性をよく表わしているものとして、以下の告白があります。

【新改訳改訂第3版】
(1) 詩篇 23篇6節
まことに、私のいのちの日の限り、いつくしみと恵みとが、私を追って来るでしょう。私は、いつまでも、【主】の家に住まいましょう

(2) 詩篇27篇4節
私は一つのことを【主】に願った。私はそれを求めている。私のいのちの日の限り、【主】の家に住むことを。【主】の麗しさを仰ぎ見、その宮で、思いにふける、そのために。

  • 「建物」と「住む」ことは、「器」と「中身(いのち)」に例えることが出来ます。主の宮を建てること、そしてそこに住むこと。いずれも密接な関係にあり、どちらも大切です。しかし、優先順位として考えるならば、ダビデの主の宮に「住む」ということが重要のように思います。「住む」ことは「知る」ことにつながります。「知る」ことは、神と人とのかかわりのいのちそのものです。その意味では、ダビデはいのち(=永遠のいのち)という本質を、生涯かけて求め続けた「神の人」であったと言えます。

3. ソロモンの危うさと失敗からの教訓

  • 目に見える数々の建物は、平和を維持する戦略的基地として建てられたものです。王国のいろいろな領地にそれらを建てようとしたソロモンには、だれがイスラエルを守るのかという危うさがあります。
  • ソロモンの平和への戦略的思いとは裏腹に、イスラエルはソロモンの統治における歪みから内部に分裂を引き起こし、やがて崩壊していきます。それゆえその崩壊を経験した者たちは、以下に見るような知恵が与えられたのです。

新改訳改訂第3版 詩篇127篇1~5節

1 【主】が家を建てるのでなければ、建てる者の働きはむなしい。【主】が町を守るのでなければ、守る者の見張りはむなしい。
2 あなたがたが早く起きるのも、おそく休むのも、辛苦の糧を食べるのも、それはむなしい。主はその愛する者には、眠っている間に、このように備えてくださる。

3 見よ。子どもたちは【主】の賜物、胎の実は報酬である。
4 若い時の子らはまさに勇士の手にある矢のようだ。
5 幸いなことよ。矢筒をその矢で満たしている人は。彼らは、門で敵と語る時にも、恥を見ることがない。

  • この詩篇は、主が家を建て、主が町を守る方であること。生存と防衛のあらゆる保障であるという確信と同時に、その主への信仰を次の世代に正しく継承することの重要性を語っています。生きた信仰の継承は、神を信じる者たちにとって大事業と言えるからです。これからのキリスト教会にとって、この大事業に力を注ぐことなくして、明日はないという危機意識が必要なのです。


2014.2.28


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