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アブラハムに与えられた恵みの契約

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●訂正:前頁で「原文は「ハーラン」(חָרַן)で、テラの息子の「ハラン」と同じ言葉です」となっていますが、後者の「ハーラン」の綴りは、הָרַןです。

10. アブラハムに与えられた恵みの契約

【聖書箇所】創世記12章1節~13章18節

はじめに

  • 12章から創世記の本論がはじまります。1~11章はその序説的な位置づけと言えます。つまり、イスラエル人(あるいはユダヤ人)の父祖であるアブラハム、あるいは世界の救いの担い手であるアブラハムの位置づけるために必要な序説なのです。
  • 信仰の父と言われるアブラハムの生涯をじっくり瞑想するだけでも、多くの霊的な宝を見出すことができます。そして多くのメッセージが与えられることでしょう。しかし、「聖書を横に読む」では、できるだけ横の太い流れを把握することを主旨としていますので、その流れに沿った事柄を取り上げていきたいと思います。

1. アブラムに与えられた神の根源的約束(アブラハム契約)

  • 父テラがハラン(新改訳第2版ではどういうわけか「カラン」と表記しています。第3版から「ハラン」と改訳されました。ヘブル語はחָרָןで「ハーラーン」です。新共同訳は「ハラン」でとしています)に住み着いてしまったので、主は再びアブラムに呼びかけます。
  • 12章1~3節は聖書におけるきわめて重要な神の約束で「根源的約束」とも呼ばれます。

    1「あなたは、あなたの生まれ故郷、あなたの父の家を出て、わたしが示す地へ行きなさい。
    2 そうすれば、わたしはあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大いなるものとしよう。あなたの名は祝福となる。
    3 あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたをのろう者をわたしはのろう。地上のすべての民族は、あなたによって祝福される。」

    ※【新改訳2017】では、「あなたを呪う者をわたしはのろう」と訳されました。これによって「呪う」と「のろう」は別な語彙であることが明確になりました。「呪う」は「カーラル」(קָלַל)でピエル態の分詞です。「のろう」は「アーラル」(אָרַר)です。「カーラル」は「軽んじる、卑しめる、無視する、無関心である」ことを意味します。そのように者に対して、神はのろうのです。

  • この約束は今も現在進行形であり未完成です。神の救済史的経綸の大枠となる契約です。とりわけ12章1~3節で強調されている動詞(ピエル態)は、2節の「(あなたを)祝福する」と「(あなたの名を)大いなるものとする」、そして3節の「(あなたを)祝福する者を」、「(わたしは)祝福しよう」です。
  • このように、神の「祝福する」ということが強調されています。この祝福は個人的なものにとどまらず、グローバルな、末広がりな祝福を意味しています。神はご自身の永遠のご計画を実現するために、ひとりの人物アブラムを呼び出して彼を祝福することからはじめられたのです。12章1~3節の約束はアブラムの生涯において繰り返し語られます。しかし彼がその生涯で得たものはほんのわずかなー与えられた約束に比べるならば、大海の中の一滴の雫のようなーものでした。しかしアブラムは神の約束を信じて旅立ったのです。
  • アブラムが、その生涯において与えられた約束(契約)は以下の通りです。

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2. 神の約束に対する信仰は試練を通して培われる

  • 神の約束に対するアブラムの信仰という原石はさまざまな試練を通して磨かれていきます。信仰の成熟は決して平坦ではなく、むしろ多くの失敗や忍耐を通して学び、育成されていくようです。

(1) 第一の試練(12章10~20節)

  • アブラムの最初のテストは「飢饉」でした。これは生存にかかわる問題だけに深刻です。だれが自分の生存の保障を与えてくれるのか、その問題は生涯続くテストとも言えます。この最初のテストでアブラムはつまずきます。その最初のテストとは人間の最も基本的なニーズである「生存と防衛の保障」です。アブラハムは助けを神に求めることなくエジプトへ下り、自分の身を防衛すべく妻を自分の妹だと偽り(半分、本当ですが)、結果的に、エジプトの王から生存と防衛の保障を得たのです。そこでアブラムの召命は終わったかに見えました。ところが不思議なことに、アブラムを呼び出した神は、エジプトの王をひどい病気(疫病)にし、真実を夢で知らせました。それでエジプトの王は護衛付きでアブラハムとその一行をエジプトから追い出しました。これは神の恩寵の計らいでした。この恩寵ゆえに、アブラムは本来の召しに立ち戻ることができたのです。そして、財産(奴隷や家畜など)を以前よりも多く持つようになりました。しかし、そのことが第二の試練を誘発しました。

(2) 第二の試練(13章)

  • 財産の豊かさゆえに甥のロトとの間に争いが生じました。それぞれの羊の牧草をめぐる争いです。この争いも結局のところ「生存と防衛の保障」に突き当たります。この問題に対する対処において、アブラムはロトとの分離を提案し、ロトにその優先権を譲歩しました。この方法の意味は、アブラムが自分で行くべき道を選ばず、神にゆだねたことを意味します。つまり神への信仰による譲歩であり、それによって争いを回避しようとしたのです。
  • ロトは目に見える良い土地を選び取りました。アブラムは自分の優先的立場や目に見えるところによってではなく、信仰によって選び取ろうとしました。ロトと別れて後、主がアブラムに仰せられました。

14「さあ、目を上げて、あなたがいる所から北と南、東と西を見渡しなさい。
15 わたしは、あなたが見渡しているこの地全部を、永久にあなたとあなたの子孫とに与えよう。
16 わたしは、あなたの子孫を地のちりのようにならせる。もし人が地のちりを数えることができれば、あなたの子孫をも数えることができよう。
17 立って、その地を縦と横に歩き回りなさい。わたしがあなたに、その地を与えるのだから。」

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北・・「ツァーフォーン」(צָפוֹן)
南・・「ネゲヴ」(ֶנֶגֶב)
東・・「ケデム」(קֶדֶם)
西・・「ヤーム」(יָם)
●但し、方角を表す時にはそれぞれの語尾に「へー」(ה)をつけます。これは「地のすべて」だけでな、「地に住むすべての民族」をも意味しています。

●アブラムに対する主の約束は孫のヤコブに対しても引き継がれます。「あなたの子孫は地のちりのように多くなり、あなたは、西へ、東へ、北へ、南へと広がり、地のすべての部族はあなたによって、またあなたの子孫によって祝福される。」(創世記28:14)。この約束をイェシュアはザアカイの話で語っています。ザアカイはイスラエルのことを代表しています。彼が悔い改めたことで「私は財産の半分を貧しい人たちに施します。だれかから脅し取ったものがれば、四倍にして返します」という表現は、創世記28章14節の預言の成就なのです。財産の半分を施すとは、異邦人に対してであり、四倍の「四」という数も「地のすべての部族」がイスラエルによって祝福されるからです。

(3) 主のために祭壇を築く系譜

  • 最初の神の約束を与えられた後に、カナンの地で主がアブラムに現われ、「あなたの子孫にこの地を与える」と約束されました。そこからしばらく移動したあとに、アブラムは自分に現われてくださった「主のために、祭壇を築き、主の御名によって祈りました。」(12:7)。また、エジプトから戻ったときにも「主の御名によって祈った」とあります(13:4)。そしてまた天幕をヘブロンに移した時にも、アブラムは自分に現われてくださった主のための祭壇を築きました(13:18)。そこには常にテレビンの木(樫の木)がありました。

    画像の説明

  • かつて「主の御名によって祈ることを始めた」セツの系譜(4:26)、箱舟を出たノアが「主のために祭壇を築いて、全焼のいけにえをささげた」神を恐れる系譜(8:20)はアブラムへとつながっているのを見ます。ちなみにアブラムが生まれた時、ノアはまだ生きており、58年もの間、同じ時期に過ごしたとも考えられます。とすれば、ノアからテラに至るまでの10代の先祖がすべて生存していたことになります。

2011.8.19


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