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ヤコブのペニエル経験

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36. ヤコブのペニエル経験

【聖書箇所】 創世記 32章

はじめに

  • ヤコブは恐れのゆえにラバンのもとから逃げるようにして出ましたが、32章にはさらにヤコブを追い詰めた恐れと直面することになります。32章の前半は兄エサウに対する恐れのゆえに、前もって使者(複数)を送りましたが、エサウが四百人を引き連れて迎えに来ると聞かされた時、その恐れは頂点に達しました。7節にはヤコブが「非常に恐れ、心配した」とあります。そして必死に、主にエサウの手から自分を救い出してくれることを神に祈るヤコブの姿があります(32:9~12)。その上で、おびただしい数の家畜の贈り物を、三つの群れに分けて先に行かせて、エサウをなだめようと画策します。
  • これまで、ヤコブが自ら、自覚的にひとり神の前に祈ったという記録はありません。自分の知恵と力に頼り、神に祈る必要を感じてなかったような生き方をしてきました。しかし、32章では恐れに支配されたヤコブが必死にそれから救い出されるための祈りをしています。この祈りを通して、ヤコブがヤコブの最も深いところにある部分を神によって取り扱われるという転機を迎えることとなったのです。
  • 創世記32章は、多くの様々な象徴的表現のゆえに理解が難しいものとなっています。しかし、それゆえに、むしろ深遠な教え(真理)が隠されているのです。以下の表現は(確かな事実であることを信じながらも)、きわめて象徴的な意味合いを含んでいます。

    ①ひとりになったこと
    ②夜(夜から夜明けまで)
    ③格闘する
    ④もものつがい⇒「腰の筋肉」
    ⑤もものつがいがはずれる⇒「びっこになる」
    ⑥イスラエルー「神と戦い、人と戦って勝った」
    ⑦ペヌエルー「私は顔と顔を会わせて神を見たのに、私は救われた」
    ⑧「太陽は彼の上に上ったが、彼はそのもものためにびっこをひいていた。」


1. 「ある人」との格闘

 ヤコブの格闘
  • ヤコブが、夜、ひとりになったとき、「ある人」(原文では「イーシュ」אִישׁ)がヤコブと夜明けまで格闘しました。この「ある人」とは神から遣わされた御使いと考えられます。この格闘はヤコブから求めたものではありません。神がヤコブの祈りに応えて、ヤコブのために「ある人」が遣わされたのです。この点が重要ですその格闘についても何のための格闘なのか、全く説明されていません。ただ、この格闘において「ある人」はヤコブに勝てないのを見て、ヤコブのもものつがいを打ちました。ここでも「もものつがいを打つ」ことが何を意味するのかも、全く説明されていないのです。
  • なぜヤコブのもとに「ある人」が来たのか。それはおそらく恐れからの救いを求めるヤコブに対して、真の助けを与えるために遣わされたのだと考えます。この場面では何がヤコブを苦しめていたかといえば、それは恐れです。
  • 「恐れ」とは私たちの内面にある最も深い問題です。私たちのすべての思考と行動は、この「恐れ」から生じていると言っても過言ではありません。ヤコブはかつてエサウを騙した問題において、贈り物を与えることで解決しようとしましたが、恐れとはそんな簡単な問題ではなく、自分の生存と防衛の保障を揺り動かすほどの力を持っています。ここでの「ある人」は、多くの財産を持ちながらも、それによって平安や安心を得られず、恐れに支配されてしまっているヤコブを救うために遣わされたのだと考えます。
  • それ事態は恩寵です。しかし、ヤコブの自我が余りにも強いために、「ある人」はヤコブを取り扱おうにも取り扱うことができなかったようです。それが「勝てなかった」と表現しているのだと思います。このことは神の救いを求めながらも、自分の最も深い問題には触れてもらいたくないという人間の自己中心性を意味しているように思います。
  • 「ある人」は、ヤコブをそのままでは取り扱うことができないために、彼のもものつがいを打ったのです。もものつがいとは人の腰の部分ですが、身体的に人間を支えている重要な部分です。しかしその部分は象徴的な意味において、ヤコブを支えている精神的本柱でもあります。その部分を打つことによってつがいがはずれるとは、はずされた者の最も深い部分に触れられたことを意味するだけでなく、実際に、ヤコブが自分の力で戦うことができず、弱い者とされたことを意味します。

2. ある人のヤコブに対する「ひとつの問い」

  • ところが、もものつがいをはずされて弱くされたヤコブは、今度は「その人」に、「祝福してくださらなければ去らせない」としがみつきます(26節)。格闘において自分の最も深い部分に触れさせないようにしたヤコブですが、ひとたび「もものつがいがはずされた」ヤコブはここではなんとか祝福を得ようとしてしがみついているのです。しかも、なんとここの「あなたが私を祝福してくださらなければ、わたしはあなたを去らせない」の「祝福して」と「去らせない」は、いずれも強意形ピエル態で表現されています。なぜここに強意形が使われているのかが重要です。そして、32章の瞑想の重要なポイントだと思います。
  • 「ある人」を通して、神はヤコブをここで徹底的に取り扱おうとしているのです。「ある人」はヤコブに言います。「あなたの名は何というのか」と。ヤコブが自分を「ヤコブ」と言うことは当たり前のように思いますが、ここで問われている「名」とは存在の本質を意味します。ヤコブの本性、本質、性格、考え方、生き方、これまでしてきたすべての行為の源泉ともいうべきものを含んだもの、それが「名」です。「おまえの名は何というのか」とい問いは、「あなたという存在、あなたという存在の本当の正体はいったい何か」という問いかけなのです。
  • その問いに対して、ヤコブは自分を「ヤコブ」と答えたのです。一見、当たり前のように思われますが、違います。ヤコブが自分を「ヤコブ」と名乗ることは彼が最も嫌なことだったと考えます。つまり、それは「自分は人を出し抜き、人を押しのける存在」だということを自ら認めるだけでなく、それが自分の本性であり、「恐れ」をもたらしている問題の本源であることを自ら認めることになるからです。自分がそのような存在でしかないこと、そしてそれが自分のうちに恐れをもたらしていること、そのことをヤコブが認めたそのとき、「あなたの名は、もうヤコブとは呼ばれない。イスラエルだ。あなたは神と戦い、人と戦って、勝ったからだ」と宣言されたのです。

3. イスラエルという名の意味するところ

  • 「あなたの名は、・・・イスラエルだ。あなたは神と戦い、人と戦って、勝ったからだ」という箇所も実にわかりにくいところです。「イスラエル」の意味について、いろいろな聖書が以下のように述べています。

    ①岩波訳 
    「神は闘う」
    ②フランシスコ会訳 
    「神と争う」。「神は聞く」を意味する「イシュマエル」の場合と同じと解釈する。
    ③中沢訳
    「神に挑む」。原語を「サラー・エロヒム」に由来する民間語源的説明によるとしています。つまり「おまえは神と人に勝負を挑んで勝ったから」と訳す。
    ④関根訳(中沢訳と似ています) 「君は神と人とに戦を挑(サーラー)んで勝ったからだ」。「サーラー」(שָׂרָה)は、争う、戦う、もがく、あがく、といった意味です。
    ⑤新改訳 
    「あなたは神と戦い、人と戦って勝った」
    ⑥新共同訳 
    「お前は神と人と闘って勝った」

  • 以上のように、「イスラエル」の説明がなされているのですが、分かるようで分からない表現です。この宣言の意味するところは何なのでしょうか。もう一度、ヘブル語から「イスラエル」の意味を考えてみましょう。イスラエル(「イスラーエール」יִשְׂרָאֵל)の「エール」(אֵל)は「神」を意味しますが、その前にある「イスラー」は「君、指導者」を意味する「サル」(שַׂר)の動詞「サーラル」(שָׂרַר)の未完了形に由来するのではないかと考えられます。したがって「サーラル」(שָׂרַר)は「支配する」という意味ですから、「イスラエル」とは「神が支配したもう」という意味になります。
  • それは、ヤコブが自分の真の弱さを認めたことにより、自分のうちにあった恐れに打ち勝ったことを意味すると考えることができるかもしれません。ここでいう「勝った」とは、自分の弱さを認め、神に支配してもらうことを意味し、いわば使徒パウロの言う「弱い時にこそ、強い」という逆説の真理を意味するものと言えます。また、主イエスが言われた「貧しい者は幸いです。なぜなら、その天の御国はその人のものです」(マタイ5:3)にもつながる真理です。この逆説の真理が成り立つところの神が支配する者、神によって支配される者こそ勝利者であり、「イスラエル」の呼び名が意味するものだと思います。「太陽は彼の上に上ったが、彼はそのもものためにびっこをひいていた。」という表現も、その逆説の真理を支えている表現だと考えられます。

ペニエル
  • 最後に、余談ですが、ヤコブが「ヤボクの渡し」で格闘した場所は、「ペニエル」なのか、それとも「ぺヌエル」なのか。それぞれ聖書によって表記が異なります。
ペヌエル
  • 原文では、30(新共同訳は31)節では「ペニエル」となっており、31(新共同訳は32)節では「ペヌエル」と二種に表記されています。つまり、どちらでも構わないということです。

2011.10.11


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