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ユダヤ人のアイデンティティの危機

〔2〕ローマの支配時代におけるユダヤ人のパラダイム形成

2. ユダヤ人のアイデンティティの危機

  • イスラエルを圧迫する国々は次々と入れ替わった。各国の軍隊が彼らの国土を蹂躙し、さまざまな帝国が支配権を主張した。ユダヤの民は異邦人に隷属していることを嘆くばかりだった。そして自らの手で自らを支配することを心から願った。「そしてそれはいつの日かメシアが来て異邦人の諸国を征服して、イスラエルを回復するという期待となって拡大していく。この期待はイスラエルが世界を征服して、すべての国はイスラエルに服従するという幻想をもたらした。
  • ところで、ユダヤ人を飲み込もうとするローマの支配の危機に対して、ユダヤ人たちが自分たちのアイデンティティを守るために何らかの方策を取らなければならなかった。
  • ローマ支配は政治的・軍事的な帝国主義以上のものを表現していた。つまり文化上の帝国主義である。強力で異教的なヘレニズムという世界文化の帝国主義である。ユダヤ人の中には律法に縛り付けられる生活の厳しさに飽きている者たちもいたわけで、彼らにとってギリシャ・ローマ文明の価値観は、人に自由をもたらすものと見えた。そしてヘレニズムに嫌悪感をもっていたユダヤ人にとっても、ローマの文化には抵抗できないものと思われていた。
  • 律法に忠実なユダヤ人は、この異教文化にならされてしまうことの危険をよく知っていた。人々の霊的状態はかなり低下しており、何世紀にもわたって預言者の現われない時代が続いていた。人々は飢饉を経験していた。霊の飢饉「主の言葉を聞くことのできぬ」飢饉である。そのような状況の中で、ユダヤ人としてのアイデンティティを守るためには何をすることができるか。どうすれば、彼らを飲み込もうとする「国々」の誘惑を防ぐことができるか。ほかのすべての者と同じようになるのを防ぐためには、どうすればいいのかを対処しなければならなかった。

対処、その一
その対処の一つとして、ユダヤ人は「ほかの人々」とはだれかを厳密に決めるということをしたのである。ユダヤ人は非ユダヤ人を「国々」(異邦人)と呼び、人間として低く評価した。「世の国々」市民は偶像礼拝と不道徳の民であり、信頼できない人間であるとユダヤ人は確信した。彼らとの結婚はユダヤ人を汚染することになるのである。ユダヤの民は、自分たちと血のつながりを持つサマリヤ人をさえ異邦人(外国人)と見た(ルカ17章18節)。

対処、その二
ユダヤ人はまた「バリア(壁)」を築いた。彼らと「ほかの国々」(サマリヤを含む)との間に、ユダヤ教の指導者は「頑丈な障壁」を築こうとしたのである。この壁は自分たちの国が生存するためにどうしても必要だとユダヤ人の指導者は考えた。ほかの国々とは違う国であることを主張することによってのみ、彼らは<聖なる国>となることができると考えた。そのようにして始めて、国家としてのアイデンティティを保ち、生活のすべての面で神をあがめることができると彼らは信じた。ユダヤ人は<聖>であることを通して、国家としての生存を求めようとしたのである。

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