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ヨアブによるダビデとアブシャロムとの和解工作

39. ヨアブによるダビデとアブシャロムとの和解工作

【聖書箇所】14章1節~33節

はじめに

  • 14章の中心人物は将軍ヨアブです。彼がダビデの心境をどのように読み取って策略を巡らしたのかがこの章を味わう鍵です。ところが、1節は、新改訳と他の聖書は全く対照的な訳をしているのです。

【新改訳改訂第3版】
13:39 ダビデ王はアブシャロムに会いに出ることはやめた。アムノンが死んだので、アムノンのために悔やんでいたからである。
14:01 ツェルヤの子ヨアブは、王がアブシャロムに敵意をいだいているのに気づいた。


新共同訳では
13:39 アムノンの死をあきらめた王の心は、アブサロムを求めていた。
14:01 ツェルヤの子ヨアブは、王の心がアブサロムに向かっていることを悟り、

口語訳では
13:39 王は心に、アブサロムに会うことを、せつに望んだ。アムノンは死んでしまい、ダビデが彼のことはあきらめていたからである。
14:01
ゼルヤの子ヨアブは王の心がアブサロムに向かっているのを知った。

岩波訳の14:1は「ヨアブは、王の心がアブサロムに向かっているのを知った。」、フランシスコ会訳も「ヨアブは、王の心がアブサロムに傾いているのに気付いた」とあります。

画像の説明

  • 14章1節の原文の直訳は「というのは、王の心はアブシャロムの上に」です。「アブシャロム」の前にある前置詞の「アル」עַלは「~の上」という意味ですが、名尾耕作氏の「ヘブル語大辞典」によれば敵対の意味でも使われるようです。とすれば、ヨアブはダビデとアブシャロムとの和解工作に乗り出したことになります。

1. ヨアブの和解工作の意図

  • ここで、ヨアブがなにゆえにここで和解工作を試みたのか。その意図はなんてあったかが重要です。一見、父ダビデと子アブシャロムとの間にある断絶を解消して和解させるという個人的な問題のように見えますが、政治の世界ではもっと複雑であり、きれいごとでは済まない問題があります。ここでの背後にある問題は王位継承の問題の視点から取り上げられているように思います。
  • ヨアブの仲介の労の背景には政治的意図があったと思われます。それは、彼が自分の故郷ベツレヘムに近いテコアに住む賢い女性を起用して、ダビデ王にある話をさせましたが、その話の中に、「人々が私をおどした」(「わたしが民を恐れた」)というフレーズが出てきます。このことばの中に、ある種の不満が民衆の中に醸成されていたことが考えられます。民衆の立場からすれば、アブシャロムが逃亡(見方によれば、「追放」)されてから、3年経つうちに微妙な変化が見られるようになってきた思われます。十分に罪の代償を払ったのではないか、にもかかわらず、未だに追放が解除されていない現実において、次の王位継承者として最もふさわしいのはアブシャロムだと民衆は考え始めていたことが、ヨアブの耳に入ってきたと考えられます。
  • ヨアブの画策は単なる個人的な気持からではなく、王ダビデのアブシャロムに対する敵意と民衆のある種の不満の板挟みの中で、将来、自分の政治的立場を確保する上でどうしても仲介の労を取る必要があったのではないかと言えます。そのために何らかの恩義を売っておくチャンスをねらっての画策だったと言えます。

2. アブシャロムがエルサレムに帰還してからのヨアブの心境の変化

  • アブシャロムはエルサレムに帰還することができ、ヨアブの画策はあたかも成功したかに見えました。ところが、ヨアブのアブシャロムに対する心境は微妙に変化しています。つまり、アブシャロムがエルサレムに帰還してから、仲介役を取らなくなっています。その変化は何を意味するのでしょうか。おそらくアブシャロムに対するダビデの心はアンビバレントであることにヨアブが気づいたからかもしれません。
  • アブシャロムという人物は、決断力、正義感、用意周到性をもった、ある意味で王位継承者としてふさわしい賜物をもっている反面、激しい気性も持ち合わせている人物です。さらには、アブシャロムは自分には全く咎があるとは思っていないふしがあります。兄アムノンに復讐したことは間違っていない、自分は正しいことをしたのだと確信しています。そんな気持ちが微妙にヨアブに伝わったと考えられます。
  • アブシャロムも、父ダビデとヨアブの双方に自分の気持ちをわかってくれるという期待(思い込み)があっての強硬手段によって、父との面会が実現します。息子は王の前で地にひれ伏して礼をし、王は息子に口づけします。しかしそれは形だけのものであって、むしろ互いの気持ちの断絶がいよいよ明確になっていったように思います。人の心は一筋縄ではいかない複雑なものであることを物語っています。
  • ちなみに、この章でも神は全く沈黙しています。

2012.8.7


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