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実にぶどう酒(富)は欺くものだ

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3. 実にぶどう酒(富)は欺くものだ

【聖書箇所】 2章5節

ベレーシート

  • ハバククの第二の問いかけ(1:12~2:4)に対して、主はその答えを「幻」として語られますが、その「幻」の内容は、神の「定めの時」、すなわち「終わり」についての事柄で、必ず起こることだとしています。その具体的内容が2章5節以降に記されています。
  • それは、ハバククの嘆きである「カルデヤ人」(バビロン)の繁栄は、決して長続きせず、恥が彼らの繁栄(栄光)をおおうことになるというものです。そのことがいろいろな表象を用いて表現されています。今回は、5節にのみ焦点を当ててみたいと思います。

1.  彼はよみのようにのどを広げ、死のように、足ることを知らない

【新改訳2017】ハバクク書2章5節
実にぶどう酒は裏切るもの。
勇士は高ぶっていて、定まることを知らない。
彼はよみのように喉を広げ、
死のように、満ち足りることを知らない。
彼は自分のもとに、すべての国々を集め、
あらゆる民をかき集める。

【新改訳改訂第3版】ハバクク書2章5節
実にぶどう酒は欺くものだ。
高ぶる者は定まりがない。
彼はよみのようにのどを広げ、
死のように、足ることを知らない。
彼はすべての国々を自分のもとに集め、
すべての国々の民を自分のもとにかき集める。

【新共同訳】ハバクク書2章5節
確かに富は人を欺く。
高ぶる者は目指すところに達しない。
彼は陰府のように喉を広げ/
死のように飽くことがない。
彼はすべての国を自分のもとに集め/
すべての民を自分のもとに引き寄せる。

  • 2章5節の「」とは、カルデヤ人(バビロンの王)のことです。「彼」のみならず、2章5~20節にある「あなた」と「自分」という人称はすべて、ユダの矯正のために神がその器として用いられる「バビロンの王」のことを指しています。ただ、7節の「彼ら」はバビロンによって略奪された諸国の民のことを指しています。
  • 5節の「実にぶどう酒は欺くものだ。高ぶる者は定まりがない。」というフレーズは、ひとつの定理のような格言です。1946年に発見された「死海写本」、クムラン文書の中に「ハバクク書注解」があります。それによれば「ぶどう酒」の部分が「富」となっているようです。新共同訳は「富」と訳しています。「ぶどう酒」も「富」も人を欺くことには変わりありません。神を拠り所としない者にとっては、富は安心感を与えてくれるものです。ですから人は決して満足せず、富を貪欲に求めるのです。しかしその安心は偽りです。そのことを5節の後半で、「彼はよみのようにのどを広げ、死のように、足ることを知らない。彼はすべての国々を自分のもとに集め、すべての国々の民を自分のもとにかき集める。」と記しています。まさに、「貪欲の具現」のようなカルデヤ人(バビロン)の素性を表わしています。
  • のど」と訳された語彙はヘブル語の「ネフェシュ」(נֶפֶשׁ)です。聖書においてとても重要な語彙の一つです。ハバクク書2章では実は3回、以下の箇所に使われています。

(1) 2章4節
見よ。彼の(נֶפֶשׁ)はうぬぼれていて、まっすぐでない。しかし、正しい人はその信仰によって生きる。
(2) 2章5節
・・彼はよみのようにのど(נֶפֶשׁ)を広げ、死のように、足ることを知らない。
(3) 2章10節
あなたは自分の家のために恥ずべきことを計り、多くの国々の民を滅ぼした。あなたのたましい(נֶפֶשׁ)は罪を犯した。

  • 「心」「のど」「たましい」と訳された「ネフェシュ」(נֶפֶשׁ)を他の訳ではどのように訳しているかを調べてみると以下のようになっています。
    画像の説明
  • 「ネフェシュ」という語は、本来、人間存在の身体的な部分を除いた目には見えない領域を意味します。つまり、人間の心、精神の領域を表わす語彙ですが、ハバクク書でもそうであるように、聖書では良い意味では使われていません。特に「のど(喉)」と訳されている箇所では、人間のむき出しの欲望を表しています。心を満足させるために必要と思うものは何でも取り込もうとする精神を意味しています。
  • そのことを示すかのように、5節で彼(バビロン)は、すべての国々を自分のもとに「集める」(「アーサフ」אָסַף)「かき集める」(「カーヴァツ」קָבַץ)者であり、続く6節でも自分のものでないものを、略奪によって「増し加える」(「ラーヴァー」רָבָה)者、おのれを「肥やす」(「カーヴァド」כָּבַד)者であると表現されています。
  • 人間も他の生きものもすべて、聖書では「生けるもの」として造られました。この「生けるもの」をヘブル語では「ネフェシュ・ハッヤー」(נֶפֶשׁ חַיָּה)と表現します。ちなみに、「ハッヤー」(חַיָּה)は名詞で「いのち」を意味し、その複数形は「ハッイーム」(חַיִּים)です。人間の場合、神が特別に土地のちりで人を形造り、その鼻から「いのちの息」(「ニシュマット・ハッイーム」נִשְׁמַת חַיִּים)を吹き入れられたことで、「生きたもの」となったのです。ところが、人間が罪を犯したことによって、「ハッヤー」が抜け落ちて、単なる「ネフェシュ」となってしまいました。「ネフェシュ」が「喉(のど)」を意味するのは、動物と同様に、手当たり次第に、自分のものにしようとする人間の所有欲に満ちた姿を表しています。
  • イェシュアは、遺産のことでもめている兄弟のひとりから相談されたとき、次のように言いました。「どんな貪欲にも注意して、よく警戒しなさい。なぜなら、いくら豊かな人でも、その人のいのちは財産にあるのではないからです。」と(ルカ12:15)。黄色の部分にはギリシア語の「ゾーエー」(ζωὴ)が使われています。ヘブル語ですと「ハッヤー」(חַיָּה)ですが、「財産」によっては「いのち」にあずかることはできないと言われたのです。
  • 遺産の分与をめぐって肉親の間に(親子や兄弟、および親戚に)争いが起こってしまうことは古今東西の共通の問題ですが、貪欲な思いが強ければ強いほど問題はより深刻化します。ですから、イェシュアが「どんな貪欲にも注意して、よく警戒しなさい。」と語ったことは理にかなっています。しかし後半の「なぜなら、いくら豊かな人でも、その人のいのちは財産にあるのではないからです。」という意味を正しく理解した人々は果たしてどれくらいいたでしょうか。
  • イェシュアは、このあと続いて人々に次のようなたとえ話をされたのです。

    【新改訳改訂第3版】ルカの福音書12章16節後半~23節
    16「ある金持ちの畑が豊作であった。
    17 そこで彼は、心の中でこう言いながら考えた。『どうしよう。作物をたくわえておく場所がない。』
    18 そして言った。『こうしよう。あの倉を取りこわして、もっと大きいのを建て、穀物や財産はみなそこにしまっておこう。
    19 そして、自分のたましい(ヘブル語の「ネフェシュ」נֶפֶשׁ、=ギリシア語の「プシュケー」ψυχή)にこう言おう。「たましいよ。これから先何年分もいっぱい物がためられた。さあ、安心して、食べて、飲んで、楽しめ。」』
    20 しかし神は彼に言われた。『愚か者。おまえのたましいは、今夜おまえから取り去られる。そうしたら、おまえが用意した物は、いったいだれのものになるのか。』
    21 自分のためにたくわえても、神の前に富まない者はこのとおりです。」
    22 それから弟子たちに言われた。「だから、わたしはあなたがたに言います。いのちのことで何を食べようかと心配したり、からだのことで何を着ようかと心配したりするのはやめなさい。
    23 いのちは食べ物よりたいせつであり、からだは着物よりたいせつだからです。

  • このたとえ話には、豊作に恵まれた農夫の「ネフェシュ」の素性がうまく言い表わされています。青色で示した部分はすべて「ネフェシュ」(נֶפֶשׁ)、ギリシア語では「プシュケー」(ψυχή)ですが、重要なことは「ゾーエー」と「プシュケー」のかかわりです。もし私たちが神の「いのち」(「ゾーエー」ζωὴ)を求めるなら、私たちの肉体や心が必要とする「いのち」(プシュケー)は付録として与えられるというのが神の約束であり、論理なのです(ルカ12:31)。

2. バビロンの型とその運命

  • バビロンは一つの型です。「俺のものは俺のもの、おまえのものも俺のもの」という論理で生きようとする一つの型なのです。そのために自分のものではないものを、諸国から略奪して、自分を豊かにしようとするのです。しかしそれは自分を欺くことになるのです。なぜなら、誤った安心感を得ているからです。そのようなバビロンを見て「繁栄」を誇っていると思う「心」(ネフェシュ)も実は欺かれているのです。やがてはバビロンはそれと同じ論理によって生きようとする国によって、略奪されてしまう運命にあるのです。ハバククがこのことを主から聞かされた時、おそらく、彼の抱いていたバビロンの繁栄に対する疑問は解けたはずです。
  • バビロンは、あらゆる時代における「ハッヤー」なき「ネフェシュ」の型です。それゆえ、国と国とが、人と人とが、それぞれ所有をめぐる争いや略奪(戦争)を繰り返しているのです。「御国」とは、そうした「ネフェシュ」によってもたらされるすべての戦いから解放される世界です。神のいのちの息によって造られた「ネフェシュ・ハッヤー」が、メシアなるイェシュアによって回復された世界だからです。


2015.6.16


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