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御使いガブリエルがザカリヤに語った二つのことば

2.御使いガブリエルがザカリヤに語った二つのことば

【聖書箇所】 1章5~25節

【新改訳改訂第3版】
1:13
「御使は彼に言った。『こわがることはない。ザカリヤ。あなたの願いが聞かれたのです。あなたの妻エリザベツは男の子を産みます。名をヨハネとつけなさい。』」

1:19
「御使いは答えて言った。『私は神の御前に立つガブリエルです。あなたに話をし、この喜びのおとずれを伝えるように遣わされているのです。』


●19節の「遣わされているのです」は、正確には「アポステッロー」άποστέλλωのアオリスト受動態で「遣わされました、派遣されました」の意味。
●同節の「喜びのおとずれを伝える」は、「良い知らせを宣べ伝える」とも訳されます。「ユーアンゲリゾー」εύαγγελιζωは、ルカ文書においてきわめて重要な動詞で、ルカの福音書では10回使われています(1:19/2:10/3:18/4:18/4:43/7:22/8:1/9:6/16:16/20:1)。ルカ文書の使徒の働きでは15回の使用頻度です。名詞の「ユーアンゲリオン」εύαγγελιοvは新約聖書で76回も使われながら、ルカ福音書では一度も使われていません。


はじめに

  • 今回の聖書の箇所であるルカの福音書の1:5~25から、御使いガブリエルが祭司ザカリヤに語った二つのことばを取り上げたいと思います。

1. 神からの命名が意味すること

  • ユダヤの社会では子どもの命名は父親の責任でした。ところが、長い歴史の中で神から直接、命名された人物がおります。旧約ではイシュマエルとイサクの二人、新約では(バプテスマの)ヨハネとイエスの2人です。ちなみに、神によって改名された人物は旧約から順に挙げていくと、①最初はアブラハム(アブラム⇒アブラハム)、②その妻サラ(サライ⇒サラ)、③イスラエル(ヤコブ⇒イスラエル)。そして新約では④ペテロ(シモン⇒ペテロ)です。改名の場合も命名の場合も、いずれも、その人物に神の救済的使命と恩寵的啓示の意味が込められていることは言うまでもありません。
  • ところで、ルカが「綿密に調べて」書いたとする福音書には、他の福音書にはない出来事(情報)が記されています。それは、1章にあるバプテスマのヨハネとイエスの誕生とその命名のいきさつです。今回の学びの箇所では前者のみです。
    1:13「御使は彼に言った。『こわがることはない。ザカリヤ。あなたの願いが聞かれたのです。あなたの妻エリザベツは男の子を産みます。名をヨハネとつけなさい。』」
  • 御使いが祭司ザカリヤに「あなたの妻エリサベツは男の子を産みます。名をヨハネとつけなさい。」と命名したことはきわめて画期的な意味を持っていました。つまり、「名をヨハネとつけなさい。」という神の命名は、長い間、続けられてきたこれまでの旧約時代の伝統や慣習を打ち破る神の出来事でした。
  • 祭司ザカリヤとエリサベツ夫妻の実際の年齢は記されておりませんが、子どものいない年寄り夫婦でした。ヨハネの両親となる彼らはどちらも祭司の家系でユダヤの伝統を大切にする夫妻でした。もし彼らに世継ぎが与えられなければ彼らの代で家系が断絶することになります。これは現代の私たちが考える以上に深刻な問題でした。そのために、彼らは世間から「恥」を被って生きていました。ですから、彼らの祈りが聞かれて神から子どもが与えられるということは何よりもうれしいことであったはずです。ところが、です。
  • ザカリヤは、御使いガブリエルの知らせをすんなりと受け入れる事ができなかったのです。その理由は、自分も妻も年を取っていたからです。しかし考えてみるならば、イスラエルの歴史には信仰の父と言われるアブラハムとサラは彼ら以上の年寄りであったにもかかわらず、約束の子が与えられました。イサクの妻リベカも不妊で悩みましたがヤコブとエサウの双子が与えられました。預言者サムエルの母ハンナも不妊でした。このような話は当然、ザカリヤも知っていたはずです。ですが、ザカリヤは御使いの言う事をそのまま信じることができませんでした。柔軟性を失った老人性の問題なのか、それともその人の信仰の問題なのか、いずれにしても、御使いの言われることが実現するまで、ザカリヤはおしにされて、話をすることができないようにされてしまいました。
  • 私は、ザカリヤがおしにされたのは、彼の不信仰だけでなく、「戸惑い」が彼のうちにあったのではないかと推測します。その「戸惑い」というのは、神が「名をヨハネとつけなさい」の命名されたことで、自分に与えられる子が自分の大切にしてきた祭司の家系を継ぐ者となるのではなく、祭司とは全く異なる使命―つまり、預言者としての務めを担うことーに対する「戸惑い」があったように思われます。
  • ザカリヤが御使いのいうメッセージについて、たとえ素直に信じたとしても、あるいは不信仰だったとしても、それにかかわりなく、神の計画は頓挫することなく実現していったはずでした。私はザカリヤの「おし」にされたことは報いとしてではなく、彼の戸惑いをおおう神の恩寵であったと思います。その証拠に、彼が生まれてきた自分の息子の名を「ヨハネ」としたことで、彼の戸惑いは吹っ切れ、口が開きました(ルカ1:63~64)。#「惑いの雲消えて今は心いともやすし・・歌い叫ばん」―こんな心境だったのではと思います。
  • 老人になると新しいことを受け入れるには時間がかかるのかもしれません。ザカリヤのように、人一倍、伝統を重んじ、家系を大切にしてきた者にとっては、自分の子を「ヨハネ」と名付けるにはそれなりの戸惑いがあったと推測するのです。
  • ちなみに、(バプテスマの) 「ヨハネ」はギリシヤ語の「ヨアンネース」’Ιωάvvηςで、ヘブル語の「ヨハーナーン」(יְהוֹחָנָן) をギリシャ語化したものです。「ヨハーナーン」(יְהוֹחָנָן)は、主を表わす「ヤーウェ」の神聖文字(יהוה)と形容詞の「恵み深い」の「ハーナーン」(חָנָן)の合成語で、「主は恵み深い」という意味です。しかし、ヨハネが民衆に語ったメッセージは多くの人々の心を震え上がらせるような鋭い内容で、悔い改めを迫るものでした。脚注

2. 「喜びのおとずれを伝える」こと

  • 今日の聖書の箇所からもうひとつのことを取り上げたいと思います。キーワードは「喜びのおとずれを伝える」という動詞「エウアンゲリゾー」εύαγγελιζωということばです。この語彙の名詞は「エウアンゲリオン」εύαγγελιον(「福音」という意味)ですが、ルカの福音書には名詞はひとつも使われていません。しかし、動詞は新約聖書に54回使われているおよそ半分近くが、ルカ文書(福音書と使徒の働き)に使われています。いわば、「エウアンゲリゾー」εύαγγελιζωはルカの特愛用語です。
  • 「喜びのおとずれを伝える」ことはルカが最も重要視していることです。このために、ルカは「福音書」とそれに続く「使徒の働き」を書いたと言えます。
  • 以下、「喜びのおとずれを伝える」という動詞「エウアンゲリゾー」εύαγγελιζωの引用箇所です。

〔ルカの福音書〕
1:19/2:10/3:18/4:18/4:43/7:22/9:6

〔使徒の働き〕
5:42/8:4/8:12/8:25/8:35/8:40/10:36/11:20/13:32/14:7/14:15/14:21/15:35/

  • それを手繰っていくことで何が見えてくるでしょうか。

    (1)「喜びのおとずれを伝える」使者
    ①福音書
    御使いからパプテスマのヨハネへ、そしてイエス・キリストへ、そしてイエスの弟子たちへとバトンが受け渡されていきます。

    ②使徒の働き
    教会が誕生してからは、使徒たち。エルサレムから散らされた人々。伝道者ピリポ。ペテロ。パウロとバルナバ。


    (2) 「喜びのおとずれが伝えられた」人々
    ①福音書
    祭司ザカリヤ。羊飼い。民衆、貧しい者。病いのある人々。女性たちなど。

    ②使徒の働き
    宮に来る人々や家々の人々。サマリヤの人々。エチオピアの宦官。
    カイザリヤの敬神者コルネリオ。キプロス人。クレネ人。ギリシャ人。小アジアに住む人々。


    (2) 「喜びのおとずれが伝えられた」場所
    ①福音書
    エルサレムの「神殿」からダビデの町「ベツレヘム」へ。「荒野」。そしてイエスの郷里である「ナザレ」。「ガリラヤの村々」から「ユダヤ全土」へ。

    ②使徒の働き
    エルサレムの宮、家々。サマリヤ。港町カイザリヤ。アンテオケ。ピシデヤのアンテオケ。イコニウム。ルステラ(ここまでは第一次 伝道旅行)・・アジアからヨーロッパー。そしてローマへ。


むすび

  • エルサレムの神殿から始まった「喜びのおとずれを伝える」宣教の働き、「喜びのおとずれ」である福音をまだ聞くこともなく知らずにいる多くの人々のために、御使いガブリエルから始まった「喜びのおとずれを伝える」宣教の働きを担う人々の存在があったことをルカは私たちに伝えようとしています。私たちもそのために主から選ばれた者として、聖霊の力によって、多くの人々に福音を宣べ伝えていかなければなりません。再び、主がこの世に来られるまで。



ちなみに、
「イエス」はギリシヤ語の「イエースース」'Ιησουςで、ヘブル語の救いを意味する「イェホーシュア」(יְהוֹשֻׁעַ)をギリシア語化したものです。「イェホーシュア」(יְהוֹשֻׁעַ)は、主を表わす「ヤーウェ」の神聖文字(יהוה)と「救い」を表わす名詞「イェシューアー」(יְשׁוּעָה)の合成語で「主は救い」を意味します。

2011.4.7


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