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救いの論証(6) パウロの旧約聖書の解釈


13. 救いの論証(6) 「パウロの旧約聖書の解釈」

【聖書箇所】4章21~31節

ベレーシート

※4章21~31節の総論

●ガラテヤ書2章16節の「律法を行うことによってではなく、キリストを信じることによって義と認められる」という提題(福音の基本的な教え)を、パウロは3章と4章において論証しています。その最後が今回取り上げる「第六の論証」(4:21~31)です。ここでの論証は聖書を根拠になされていますが、比喩的解釈というパウロの独特な聖書解釈(ミドゥラーシュ)によるものです。

●アブラハムの二人の妻とその妻たちから生まれた二人の子どもが対比され、「肉」と「霊」、「律法」と「信仰」、「奴隷」と「自由」、「目に見えるもの」と「目に見えないもの」の比喩として用いられています。この二つは相入れないものであることが論証され、「奴隷の女の子どもは決して自由の女の子どもとともに相続人となってはならない」こと、そして「私たちは女奴隷の子どもではなく、自由の女の子ども」であることが結論づけられています。

●「奴隷」(14回)と「自由」(9回)という語彙は、ガラテヤ書全体における重要なキーワードです。コリント(Ⅰ・Ⅱ)で8回。ですから、「キリスト者の自由」と言えば、それはガラテヤ書の別称とも言えるのです。

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■ 4章21節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章21節
律法の下にいたいと思う人たち、私に答えてください。あなたがたは律法の言うことを聞かないのですか。

●21節から論調ががらりと変わります。と言っても、以前と同じように攻撃的な口調となります。「律法の下にいたいと思う人たち」とは、律法の支配下に(「ヒュポ・ノモン」ὑπὸ νόμον)いることを願っているガラテヤ人たちのことで、律法主義をよしと思っている人たちのことです。ガラテヤ人たちが自分たちをそのように理解していたわけではありません。しかし彼らのような仕方で律法を行うことを強調することは、結局のところ、福音の支配下ではなく、律法の支配下に生きることを意味するとパウロは見ているのです。そこでパウロは、旧約聖書の記事を引き合いに出しながら問いかけているのです。

●「あなたがたは律法の言うことを聞かないのですか(=耳を傾けないのですか)」と尋ねています。ここでの「律法」とは冠詞付き律法(「ホ・ノモス」ὁ νόμος)のことで、「タナフ」(旧約聖書全体)を指しています。30節で「タナフ」を意味する「聖書」(「へー・グラフェー」ἡ γραφή)という語彙を使っていますが、なぜ21節で「ホ・ノモス」(ὁ νόμος)という語彙を使っているのかといえば、それは「律法の下にいたいと思う人たち」と合わせるためと思われます。

■ 4章22節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章22節
アブラハムには二人の息子がいて、一人は女奴隷から、一人は自由の女から生まれた、と書かれています。

●原文は「というのは、書かれているから」(γέγραπται γὰρ ὅτι)で始まっています。つまり、22節は21節の理由となっています。「アブラハムには二人の息子がいて、一人は女奴隷から、一人は自由の女から生まれた」とあるのは、これまでもパウロは「アブラハムは神を信じた。それで、それが彼の義と認められた」(3:6)や「信仰によって生きる人々こそアブラハムの子である」(3:7)など、アブラハム物語を通して論証してきているからです。さらに進んで、なぜアブラハムの子孫を自称するユダヤ人が律法の支配下(奴隷状態)にとどまらざるを得ないのか、その次第を明らかにしようとして、「アブラハムには二人の息子がいた」という点を足掛かりにしています。

●アブラハムの二人の息子(「ヒュイオス」υἱός)の名前はここでは記されていませんが、聖書を知っている者にはそれが「イシュマエル」と「イサク」だと理解できます。「イサク」という名前は28節に出てきますが、「イシュマエル」という名前は一度も出てきません。

■ 4章23節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章23節
女奴隷の子は肉によって生まれたのに対し、自由の女の子は約束によって生まれました。

●二人の息子の母のことを「女奴隷」(「へー・パイディスケー」ἡ παιδίσκη)と「自由の女」(「ヘー・エリューセロス」ἡ ἐλεύθερος)と呼んでいます。原文には「子」という語彙はありません。「女奴隷の子」は「肉によって」生まれたのに対して、「自由の女の子」は「約束によって」生まれたとあります。いずれも等しく「~によって」と訳されていますが、原文の前置詞が異なります、「肉によって」は「カタ・サルカ」(κατὰ σάρκα)で「肉に従って、肉を原理として」のニュアンス。「約束によって」とは「ディ・エパンゲリアス」(διά ἐπαγγελίας)で「約束を通して、約束に基づいて、約束を根拠として」のニュアンスです。

■ 4章24節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章24節
ここには比喩的な意味があります。この女たちは二つの契約を表しています。一方はシナイ山から出ていて、奴隷となる子を産みます。それはハガルのことです。

●冒頭の「ハティナ・エスティン」(ἅτινά ἐστιν)は、「それは~です」の「ホスティス・エイミー」(ὅστις εἰμί)の複数形です。続く「アレーゴリューメナ」(ἀλληγορούμενα)は「アレーゴレオー」(ἀλληγορέω)の分詞現在受動中態複数で「比喩的に解釈されるべきもの」という意味です。つまり、原文は「それらは比喩的に解釈されるべきものです」となります。つまり、二人の女は二つの契約を表す比喩という解釈です。比喩とは具象的なもの(目に見えるもの)によって、抽象的なもの(目に見えないもの)を表現する修辞法です。

●アブラハムの物語(ハガルとサラの物語)を読んで、おそらくパウロのような解釈をする人はだれもいないと思います。これは「イシュマエルとイサクの誕生についての歴史的な物語の背後に、隠された意味がある」ということを表そうとするラビ的な解釈(ミドゥラーシュ)なのです。あるいは、「文字によらない霊的な解釈」なのかもしれません。

●「ハガル」(הָגָר)はアブラハムがエジプトに行ったときに、妻サライの女奴隷として連れてきた者です。この「ハガル」という名の由来を「ガーラ―」(גָּרָה)とするなら、「(争いを)引き起こす、反抗する、争いを仕掛ける」という意味があります。パウロがこのことを意識していたかどうかは分かりませんが、事実、ハガルはアブラハムの家に争いを引き起こしたのです。とは言っても、そもそも問題の種はアブラハムとサラが持ち込んだものです。いずれにしても、ハガルが比喩的に一つの契約であるシナイ山と結びついて、人々を奴隷とする子を産む比喩となっているのです。

■ 4章25節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章25節
このハガルは、アラビアにあるシナイ山のことで、今のエルサレムに当たります。なぜなら、今のエルサレムは、彼女の子らとともに奴隷となっているからです。

●「ハガル―シナイ契約―今のエルサレムー律法の奴隷」という系列。これは、当時のユダヤ教のエルサレム神殿を表し、文字(文字)に仕える者たち、「罪に定める務め」「死の定め」「消え去るべき栄光」を意味しています(Ⅱコリント3:6~11)。

■ 4章26節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章26節
しかし、上にあるエルサレムは自由の女であり、私たちの母です。

●「自由の女(サラ)―私たちの母―上にあるエルサレム」という系列。この二つの系列がなぜ相容れないのか、その理由を次節で説明しています。

■ 4章27節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章27節
なぜなら、こう書いてあるからです。「子を産まない不妊の女よ、喜び歌え。産みの苦しみを知らない女よ、喜び叫べ。夫に捨てられた女の子どもは、夫のある女の子どもよりも多いからだ。」

●この箇所はイザヤ書54章1節で、LXX訳からではなく、ヘブル語聖書からの引用です。

【新改訳2017】イザヤ書54章1節
子を産まない不妊の女よ、喜び歌え。産みの苦しみを知らない女よ、喜び叫べ。
夫に捨てられた女の子どもは、夫のある女の子どもよりも多いからだ。──【主】は言われる──」

●「子を産まない不妊の女」と「産みの苦しみを知らない女」とは同義的パラレリズムです。いずれも「捕囚のイスラエル」を指します。それは「夫に捨てられた女の子ども」です。「夫に捨てられた女の子ども」と「夫のある女の子ども」は、「捕囚後のイスラエル」と「捕囚前のイスラエル」をたとえており「捕囚後のイスラエル」は「捕囚前のイスラエル」より民の数が多いと言っています。なぜなら、捕囚前はエルサレムが包囲されたことによって民が減少しましたが、帰還後の民は増加するからです。それゆえに、「喜び歌え、喜び叫べ」なのです。

●パウロはこのたとえを通して、サラを「子を産まない不妊の女」と「産みの苦しみを知らない女」とみなし、ハガルを「夫のある女の子ども」とみなしています。比較の要点は、捕囚前のエルサレムよりも捕囚後のエルサレムの方が輝かしい存在だということにあります。つまり、救いの歴史において古い関係よりも、新しい関係のほうが輝かしいということを示そうとしているのです(フランシスコ会註解)。

■ 4章28節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章28節
兄弟たち、あなたがたはイサクのように約束の子どもです。

●内容的には23節の後半の部分「自由の女の子は約束によって生まれました」を繰り返しています。イサクが約束を通して生まれた子であったように、あなたがたも、約束を通して生まれた子であるとしています。

■ 4章29節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章29節
けれども、あのとき、肉によって生まれた者が、御霊によって生まれた者を迫害したように、今もそのとおりになっています。

●強意の逆説接続詞「アッラ」(ἀλλα)で「けれども、ところが」の意。「あのとき」(「トテ」τότε)とは、創世記21章8節に父アブラハムがイサクの乳離れの日に盛大な宴会を催したとあります。乳離れした後で、ハガルの産んだイシュマエルがイサクをからかっているところをサラは目撃しました。ここでの「からかっている」と訳された語彙は、「笑う」(「イツァハク」יִצְחַקの分詞ピエル態)です。悪意をもった「からかい方」にサラは不穏な空気を読んだのです。「笑い」は人生最大の喜びを表わす「笑い」もあれば、その喜びを分かち合うことのできない「からかったり、あざけったり、軽蔑する、馬鹿にする」悪意を含んだ「嘲笑的・軽蔑的な笑い」もあるのです。パウロはこれを「迫害した」(「ディオーコー」διώκωの未完了で「しきりに迫害した」の意)と解釈したのかもしれません。こうした迫害は、神に選ばれた者に対するある神の恩恵を、傲慢な蔑視によって憎むことから起こります。その最初の実例として、カインとアベルを挙げることができます。

●「肉によって生まれた者」(「カタ・サルカ」κατὰ σάρκα)と「御霊によって生まれた者」(「カタ・プニューマ」(κατὰ πνεῦμα)とが対比されているだけでなく、前者が後者を今も同じように迫害しているとパウロは言っています。

■ 4章30節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章30節
しかし、聖書は何と言っていますか。「女奴隷とその子どもを追い出してください。女奴隷の子どもは、決して自由の女の子どもとともに相続すべきではないのです。」

●ここでも冒頭には強い逆説の接続詞「アッラ」(ἀλλὰ)があり、創世記21章10~13節の要約が引用されています。

【新改訳2017】創世記21章10~13節
10 それで、アブラハムに言った。「この女奴隷とその子を追い出してください。この女奴隷の子は、私の子イサクとともに跡取りになるべきではないのですから。
11 このことで、アブラハムは非常に苦しんだ。それが自分の子に関わることだったからである。
12 神はアブラハムに仰せられた。「その少年とあなたの女奴隷のことで苦しんではならない。サラがあなたに言うことはみな、言うとおりに聞き入れなさい。というのは、イサクにあって、あなたの子孫が起こされるからだ。
13 しかし、あの女奴隷の子も、わたしは一つの国民とする。彼も、あなたの子孫なのだから。」

●この箇所はサラが夫アブラハムに訴えた言葉です。しかし、それをパウロは神ご自身のことばとして述べているのです。ではパウロの引用は間違っているかというとそうでもありません。神がアブラハムに対して、サラの言い分を聞き入れるようにと言っているからです。サラが意識していなくても、神はサラを用いて「この女奴隷の子は、わたしの子イサクとともに跡取りになるべきではない」と言わせたのです。

■ 4章31節

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【新改訳2017】ガラテヤ人への手紙4章31節
こういうわけで、兄弟たち、私たちは女奴隷の子どもではなく、自由の女の子どもです。

●「こういうわけで」という結論を導く接続詞「ディオ」(διό)によって、21節以降の結論が述べられています。その結論とは「私たちは女奴隷の子どもではなく、かえって(ἀλλὰ)、自由の女の子どもである」ということです。

●30節での「子ども」は「息子」という意味の「ヒュイオス」(υἱός)であったのに対し、31節の「子ども」は、幼子という意味の「テクノン」(τέκνον)を使っています。ちなみに、3章26節の「神の子ども」という場合の「子」は「ヒュイオス」(υἱός)です。用法的に、特別な区別はなさそうです。

最後に

●今回見られたパウロの旧約聖書の比喩的解釈法について、それぞれどのような感想を持ったのかを話し合ってみましょう。

2019.10.3


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