申命記32章の「モーセの歌」について
【補完18】 申命記32章の「モーセの歌」について
【聖書箇所】申命記 32章1~43節
ベレーシート
- モーセが死を前にして語った32章の「モーセの歌」と33章の「モーセの祝福」はきわめて預言的であり、神のご計画とみこころ、御旨と目的において重要です。ここでは、まず32章の「モーセの歌」の緒論的な部分を扱い、次回は「モーセの歌」の注解を試みたいと思います。
1. 二つの「モーセの歌」
- 旧約聖書には二つの「モーセの歌」があります。一つは出エジプト記15章1~18節、もう一つは申命記32章1~43節です。前者の「モーセの歌」は、エジプト軍が追い迫る中で、イスラエルの民が紅海を歩いて渡ることができたことで、モーセとイスラエルの民たちが主に向かって語った喜びの賛美です。しかし後者の「モーセの歌」は、40年間の荒野での放浪生活からヨルダン川を渡って約束の地カナンの地に入っていく前に、モーセがイスラエルの民のために歌われた説教で、将来に起こる事を預言した歌です。その目的はイスラエルの民が後々の世代になって神のみおしえを忘れたり、見捨てたりしないようにするためのものでした。二つの「モーセの歌」はいずれも預言的です。「預言的」とは、イスラエルの将来に起こる歴史がこの歌の中にすでに啓示されているという意味です。預言はまだ実現していない歴史なのです。
- ヨハネの黙示録15章3~4節に「モーセの歌」が登場します。
【新改訳改訂第3版】ヨハネの黙示録15章3~4節
3 彼らは、神のしもべモーセの歌と小羊の歌とを歌って言った。
「あなたのみわざは偉大であり、驚くべきものです。主よ。万物の支配者である神よ。あなたの道は正しく、真実です。もろもろの民の王よ。
4 主よ。だれかあなたを恐れず、御名をほめたたえない者があるでしょうか。ただあなただけが、聖なる方です。すべての国々の民は来て、あなたの御前にひれ伏します。あなたの正しいさばきが、明らかにされたからです。」
- ここでの「彼ら」とは、2節にあるように「打ち勝った人々」です。つまり、反キリストの666という数字の刻印を拒否して殉教した人々、油を注がれた「二人の証人」の宣教を通して信仰の目が開かれた者たち(ユダヤ人と異邦人)、主への信仰を貫いて反キリストに勝利した人々、すなわち「勝利者(殉教者)の群れ」だと思われます。彼らは今「神の竪琴を手にして立っている」のです。「立琴」は勝利のしるしです。したがって、ここでの「モーセの歌」とは、出エジプト記15章の歌とも申命記32章の歌とも言えるのです。いずれの歌も深く研究する必要がありますが、ここでは、申命記32章に的を絞りたいと思います。
- ところで、申命記32章を学ぶ前に、申命記31章27節でモーセが自分の死後にイスラエルの民がどんな民となるかを予告しています。以下に見るように、【新改訳改訂第三版】では反語的な訳になっていますが、【新改訳2017】では直説法的な訳になっています。
【新改訳改訂第3版】申命記31章27節
私は、あなたの逆らいと、あなたがうなじのこわい者であることを知っている。私が、なおあなたがたの間に生きている今ですら、あなたがたは【主】に逆らってきた。まして、私の死後はどんなであろうか。【新改訳2017】申命記31章27節
私は、あなたがどれほど逆らう者であるか、うなじを固くするものであるかをよく知っている。見よ。私があなたがたとともに生きている今でさえ、あなたがたは主に逆らってきた。私の死後は、なおさらであろう。
2. この歌はモーセとその後継者であるヨシュアによって語られた
- 「モーセの歌」と呼ばれるこの歌は、31章の30節だけを見ると、イスラエルの会衆に対してモーセが語ったように見えます。しかし32章44節を見ると分かるように、「モーセはヌンの子ホセアと一緒に行って、この歌のすべてのことばを民の耳に語り聞かせた」とあります。「ヌンの子」(「ビン・ヌーン」בִּן־נוּן)、「ホセア」(「ホーシェーア」הוֹשֵעַ)とは、モーセの後継者となる「ヨシュア」(「イェホーシュア」יְהוֹשֻׁעַ)のことです(出24:13、民数記14:6)。「ホセア」も「ヨシュア」も「救い」を意味します。そして神の御子にしてダビデの子「イェシュア」も同じく「救い」を意味する名前です。
- 「モーセはヌンの子ホセアと一緒に行って、この歌のすべてのことばを民の耳に語り聞かせた」とあるのは、きわめて預言的です。モーセとヨシュアはいずれもイェシュアの型だからです。モーセとヨシュアには異なる点があります。それは「モーセが初臨のイェシュアの型」であるのに対し、「ヨシュアは再臨のイェシュアの型」だということです。
- イェシュアの地上の歩みはモーセに率いられたイスラエルの歴史を踏み直しています(右図を参照)。一方、ヨシュアが約束の地に人々を率いたように、イェシュアは多くの教えと奇蹟によって、やがてこの地上を完全に支配する「御国」(メシア王国)に率いていくためのデモンストレーションをされました。イェシュアの教えと奇蹟はすべて「御国」に関するものです。つまり、「モーセはヌンの子ホセアと一緒に行って、この歌のすべてのことばを民の耳に語り聞かせた」とあるのは、この歌の中には、神があらかじめ定めておられたご計画がイェシュアによって完成されることを物語っていると考えることができます。それゆえ、その視点からこの「モーセの歌」(申命記32章)を理解する必要があるのです。
3. 32章の全体の構成
(1) 1~4節・・・序
(2) 5~7節・・・テーマ(主題の提示)
(3) 8~14節・・イスラエルに対する主の恩寵
(4) 15~25節・・イスラエルの忘恩とその罪に対する神の怒り
(5) 26~42節・・諸国民に対する神の復讐と報復
(6) 43節・・・・結び
2017.12.12
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