****** キリスト教会は、ヘブル的ルーツとつぎ合わされることで回復し、完成します。******

神の福祉理念について知っておくこと

53. 旧約の福祉理念を知っておく

(1) ハンディをもった存在意義

  • モーセ五書の申命記においては、今日においても驚くような福祉社会の理念が神によって基礎づけられています。神の民イスラエルはエジプトの奴隷状態から救い出されて、神にある生きた共同体として、この世の原理とは全く異なるものの上に建てられるべきモデルです。それゆえ、その共同体は世界における神の一つのたとえして証しされなければなりませんでした。詩篇の世界においても、しばしばそうした理念によって生きる共同体としての神の民の喜びと悲しみが描かれています。
  • 「それどころか、からだの中で比較的に弱いと見られる器官が、かえってなくてはならないものなのです。・・神は、劣ったところをことさらに尊んで、からだをこのように調和させてくださったのです。それはからだの中に分裂がなく、各部分が互いにいたわり合うためです。」(コリント第一12章22, 24~25節)
  • 上記のことばは使徒パウロの教会観です。教会をからだとしてたとえ、共同体における弱い部分、劣った器官の存在の価値とその意義を教えています。今日的表現を使うなら、身体的、あるいは知的ハンディを持つ人々と言えます。あるいは、強い人に対する弱い人、健康な人に対する病気の人、経済的な豊かな人に対する貧しい人、有用な人に対する見捨てられた人のように、ハンディで苦しんでいる人々といえます。そのような存在こそ、実は「かえってなくてはならないものなのです」。なぜなら、そのように存在は「からだを調和させ、各部分が互いにいたわり合う」ために必要不可欠なのです。現代の競争原理とは全くかけ離れた神の原理です。しかし今日、その神の原理の回復が求められていると信じます。
  • ラルシュ共同体の創始者であるジャン・バニエという人は、弱さ、低さの価値を現代社会において見出そうとした人として有名です。1964年、彼は、フランスのトロリー村で二人の知的障害者と共同生活を始めました。彼はそのとき生活した家をノアの箱舟にちなんでラルシュ(フランス語の「箱舟」)と名づけました。以後、ラルシュは現在、約30か国、100以上の共同体を持つ国際的な組織に発展しました。そのラルシュ・コミュニティの使命は三つあります。
  • ①知的障害者に彼ら自身が持つ特別な人間性を回復つせるため、家庭的で暖かい環境としてのホームを作ること。
  • ②すべての人間のもつ特別な価値を発見し、明らかにすること、
  • ③ラルシュが社会の希望のしるしとなり、社会を変えていくこと。
  • 旧約聖書においても、神は、個人的なレベルだけでなく、神の民という共同体レベルにおいても神の民としてのあるべき姿を方向付けています。詩82篇はバンディある人の存在意義を私たちに考えさせる一篇です。

(2) 老人に対する神の扱い

  • 歴史のシンボルである老人の存在が軽視され、無視されるところでは、歴史そのものも軽視され、無視されます。老人の顔のしわの一本一本にその人がたどった深い意味のある歴史が隠されているように、歴史には人間の、あるいは神と人との関わりにおける知恵の豊かな宝庫が隠されています。今日残されていることわざ、格言は、まさにそうした老人の知恵の結集です。老人は昔から存在し、現代の老人と同じく、肉体的な弱さを持っていますが、その精神的豊かさはそれらの弱さを上回り、人間的な豊かさを実証しています。まさに彼らは祝福された人々であり、豊穣の季節に生きる人々なのです。
  • 能率至上主義の現代社会がもつ価値観、あるいは若さ志向こそ善であるという価値観のゆえに、老いの積極的な価値を見出すことができずにいます。最近のある世論調査でも、半数の人々が長生きしたくないと答えています。それは老いの消極的な面に目が向けられているからだと思います。しかし、これから本格的な高齢化社会を迎える日本において、あるがままの老人の姿から多くのプラス面を探ることは大きな益となると信じます。
  • 老人との深い連帯、心のつながりは、これからの若い者たちに多くの豊かな知恵をもたらすと信じます。過去は時代遅れで、価値がなく、未来こそバラ色で新しく、価値があると考えるのは錯覚であり、幻想です。温故知新(古きをたずねて新しきことを知る)ということばがあるように、過去の歴史からのメッセージに耳を傾けることが大切です。詩篇の中には、自分たちの過去の失敗の歴史を回顧しつつ、そこに隠された大切な知恵に(メッセージに)耳を傾けるようにと諭しているものが数多くあります。過去の歴史から謙虚に学ぼうとする心は、老いの価値を探ろうとする心と密接な関係があると信じます。

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