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11.詩篇18篇の神への信頼

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詩篇は、神と私たちの生きた関係を築く上での最高のテキストです。

11. 詩篇18篇に見る神への信頼(46~50節)

ベレーシート

  • 詩篇18篇の構造は以下のようになっています。

1節「彼はこう言った。・・・」
・・・・
50節「主は、王に救いを増し加え、油そそがれた者、ダビデとそのすえに、とこしえに恵みを施されます。」


●1節の「彼」とはダビデのことであり、50節の「王」もダビデです。「ダビデとそのすえ」の「すえ」(子孫)は単数形で表されており、メシアを示唆しています。なぜなら、ダビデ契約において、永遠の王国がダビデの子孫であるメシアによって成就することが約束されているからです。

●1節と50節で語っているのは、「人称なき存在」です。その間(1節後半~49節)にダビデの信仰告白が綴られている構成になっています。詩篇18篇は「嘆願」そのものはありません。叫びに答えてくださった主に対する賛美があふれています。したがって「嘆願」がなされたという前提がその背景にあります。主に対する力強い信仰告白が生み出される背景には、ダビデのさまざまな経験があったと思われます。それが純化された形で表現されています。

  • 詩篇18篇の最後の瞑想は、46~49節までです。

【新改訳改訂第3版】詩篇18篇

46 【主】は生きておられる。
ほむべきかな。わが岩。
あがむべきかな。わが救いの神。
47 この神は私のために、復讐する方。
神は諸国の民を私のもとに従わせてくださる。
48 神は、私の敵から私を助け出される方。
まことに、あなたは私に立ち向かう者から
私を引き上げ、
暴虐の者から私を救い出されます。
49 それゆえ、【主】よ。
私は、国々の中であなたをほめたたえ、
あなたの御名を、ほめ歌います。


1. 「主は生きておられる」は、誓いの慣用句

  • 46節の「【主】は生きておられる」(「ハイ・アドナイ」חַי־יהוה)は、誓いの慣用句で、サムエル記に多く登場します。以下は、その箇所とだれがこの誓いをしたかを示しています。

    (1) Ⅰサムエル記14章39節・・サウル
    (2) Ⅰサムエル記14章45節・・イスラエルの民
    (3) Ⅰサムエル記19章06節・・サウル
    (4) Ⅰサムエル記20章21節・・ヨナタン
    (5) Ⅰサムエル記25章34節・・ダビデ
    (6) Ⅰサムエル記26章10節・・ダビデ
    (7) Ⅰサムエル記28章10節・・サウル
    (8) エレミヤ書5章2節・・・・ エルサレムに住む民

    ●このように見てみると、「主は生きておられる」ということばで最初に誓った人物はサウルのようです。たとえ、この誓いのことばを使ったとしても、必ずしも真実に誓っているとは限りません。


  • ちなみに、旧約における誓いの形式は他にもあります。アビメレクに対してアブラハムが誓った出来事が創世記21章にありますが、アブラハムは「私は誓います」(創世記21:24)と言います。「誓う」という動詞は「シャーヴァ」(שָׁבַע)で、「七たび行なう」ことを意味します。名詞の「七」も「シェヴァ」(שֶׁבַע)で語源が同じです。つまり、「七」と「誓い」には密接な関係があります。アブラハムはアビメレクに対して、「私がこの井戸を掘ったという証拠となるために、七頭の雌の子羊を私の手から受け取ってください」と言います。このときアビメレクがそれを受け取れば誓いを伴った契約が成立するのです。彼らはその場所を「ベエル・シェバ」と呼びました。「ベエル」(בְּאֵר)とは「井戸」のことですから、「ベエル・シェバ」で「七つの井戸」、あるいは「誓いの井戸」という意味になります。

    二つの救出用語.JPG

2. 二つの救出用語

  • 詩篇48節には二つの救出用語があります。一つは「パーラト」(פָּלַט)、もう一つは「ナーツァル」(נָצַל)です。前者は18篇の中で3回(2, 43, 48節)使われ、「救う、助け出す、助け出される」と訳されています。後者は同じく3回(表題, 17, 48節)で「救う、救われる、取り戻す」と訳されます。
  • とりわけ、ここで取り上げたいのは「ナーツァル」(נָצַל)の初出箇所です。この動詞が初めて登場するのは以下の創世記31章です。

【新改訳改訂第3版】創世記31章1~9節
1 さてヤコブはラバンの息子たちが、「ヤコブはわれわれの父の物をみな取った。父の物でこのすべての富をものにしたのだ」と言っているのを聞いた。
2 ヤコブもまた、彼に対するラバンの態度が、以前のようではないのに気づいた。
3 【主】はヤコブに仰せられた。「あなたが生まれた、あなたの先祖の国に帰りなさい。わたしはあなたとともにいる。」
4 そこでヤコブは使いをやって、ラケルとレアを自分の群れのいる野に呼び寄せ、
5 彼女たちに言った。「私はあなたがたの父の態度が以前のようではないのに気がついている。しかし私の父の神は私とともにおられるのだ。
6 あなたがたが知っているように、私はあなたがたの父に、力を尽くして仕えた。
7 それなのに、あなたがたの父は、私を欺き、私の報酬を幾度も変えた。しかし神は、彼が私に害を加えるようにされなかった。
8 彼が、『ぶち毛のものはあなたの報酬になる』と言えば、すべての群れがぶち毛のものを産んだ。また、『しま毛のものはあなたの報酬になる』と言えば、すべての群れが、しま毛のものを産んだ。
9 こうして神が、あなたがたの父の家畜を取り上げて、私に下さったのだ。


●9節の「取り上げて」と訳されている語彙に「ナーツァル」が使われています。ヤコブは叔父のラバンから何度も欺かれ、その報酬についても幾度も変えられました。ところが神はヤコブに対して損になるようにはなさいませんでした。神がともにおられるということはどういうことかをこの箇所は教えてくれます。


3. 二つの「岩」を表す語彙

  • 詩篇18篇には「岩」を意味する二つの語彙が使われています。一つは、2節の「わが巌」で「セラ」(סֶלַע)というヘブル語が使われています。もう一つは、2, 31, 46節の「岩」で「ツール」(צוּר)というヘブル語です。英語はいずれもrockと訳されます。
  • どこが違うのでしょうか。それぞれの初出箇所を見てみたいと思います。

(1) 「セラ」(סֶלַע)の初出箇所は民数記20章8節。

【新改訳改訂第3版】民数記20章7〜9節
7 【主】はモーセに告げて仰せられた。
8 「杖を取れ。あなたとあなたの兄弟アロンは、会衆を集めよ。あなたがたが彼らの目の前で岩に命じれば、は水を出す。あなたは、彼らのためにから水を出し、会衆とその家畜に飲ませよ。」
9 そこでモーセは、主が彼に命じられたとおりに、【主】の前から杖を取った。

●ここは「メリバの水」と言われている箇所です。イスラエルの荒野生活の終り頃の出来事です。


レフィディムの大岩.JPG

(2) 「ツール」(צוּר)の初出箇所は出エジプト記17章6節です。

【新改訳改訂第3版】出エジプト記17章5~6節
5 【主】はモーセに仰せられた。「民の前を通り、イスラエルの長老たちを幾人か連れ、あなたがナイルを打ったあの杖を手に取って出て行け。
6 さあ、わたしはあそこのホレブの岩の上で、あなたの前に立とう。あなたがそのを打つと、から水が出る。民はそれを飲もう。」そこでモーセはイスラエルの長老たちの目の前で、そのとおりにした。

本当のシナイ山の岩からの水.JPG

●ここは「マサの水」と言われている箇所で、出エジプトしてから間もない頃の出来事です。

●「ツール」(צוּר)の「岩」を、新共同訳は「大岩」と訳しています。これは意味深いです。ここでの「岩」は「ホレブの岩」と記されています。今日でもレフィデムには、二百万人ほどの人々や家畜にまで飲ませるほどの「水が湧き出た」と考えられる「大岩」が存在するのです。詩篇78篇15~16節にもこの奇蹟的な出来事が記されています。

●このように、聖書における「ツール」(צוּר)には、単なる敵からの隠れ場としての「岩」だけでなく、生存を保障する象徴的な「岩」があると考えられるのです。


【新改訳改訂第3版】詩篇78篇15~16節
15 荒野では岩(「ツールצוּר)の複数を割り、深い水からのように豊かに飲ませられた。
16 また、岩(「セラסֶלַע)から数々の流れを出し、水を川のように流された。


2016.11.30


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