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2. 列王記概説 第一部「ソロモンによる統一王国」(1列王1~11章)

歴史書(1)の目次

2. 列王記の概説 第一部〔ソロモンによる統一王国〕1列王記1~11章

(1) ダビデの後継者問題(1~2章)

  • ダビデの後継者問題にのみならず、列王記には権力をめぐる人間の欲深い、罪深い問題にあからさまに触れることになる。

①〔王位継承の争いの原因〕

a. ダビデが後継者を明示しなかったこと
ダビデの心に子どもたちに対する傷があったのかも知れない。第一王子アムノンによる異母妹タマルの陵辱事件(Ⅱサム13章)。第三王子アブシャロムのアムノン殺害。そして父ダビデに対する反逆事件(クーデター)。それをもたらした父子相克の悲劇。脚注2  アブシャロムは「人の心を盗んだ」(Ⅱサムエル15章6節)とあるように、人心操縦術にはたけていたが、本当の意味では人の心の奥底にあるものを知らなかった。結果的にクーテターは失敗に終わったが、父ダビデの悲しみは大きかった。アプシャロムはイスラエルという国が神の王国であるというその本質を知らなかったと言える。

b. 子が多かったこと(ヘブロン時代には6人、エルサレム時代には19人以上)

c. 長子相続(序列)の原則か、それとも序列に関係なく有能な器量ある子を選ぶか。王制安定のためにどのような選び方が良いか。しかも王位継承者をだれにするかによってダビデ王朝の行く末が決まるとすれば、決断に悩まない方が不自然である。

②〔王位継承を決定付ける一つの事件・・・アドニヤの反乱(クーデター)〕

a. 第四王子アドニヤは自分こそダビデの後継者となるべく即位式を執行。即位宣言により宮廷は二分。焦点はアドニヤとソロモンに絞られる。アドニヤ陣営は召集軍の司令官ヨアブと大祭司エブヤタル。ソロモン陣営は母バテ・シェバ、傭兵隊隊長ベナヤ、祭司ツァドク、預言者ナタン。

b. この事態の危険さ、つまり優柔不断さをいち早く察知して敏速に行動したのが、預言者ナタンである。彼の行動は自己保身のためではなく、その動機は神のみむねなど眼中にない人物の手に王権が奪われることを阻止することにあった。ナタンにとって王位継承者に関する神のみむねは明瞭であった。Ⅱサムエル7章12節により、ダビデの信任する者がその後継者となること。このナタンの進言により、ダビデは後継者決定の決意をし、祭司ツァドクによりソロモンは王としての最初の油注ぎを受けた。皮肉なことに、アドニヤの反乱がソロモンの即位を早める結果となった。

c. アドニヤの問題点は、自分の対立する人々の存在について甘く見ていた。洞察力と判断力の欠如。そして物事を慎重に秘密裏に進めていく計画性の欠如。特に、洞察力と判断力はリーダーとして必須条件。

d. ライバルは一掃され、ソロモンの王位は確立する。


(2) ソロモンの王しての行政能力(3章~10章)

①〔ソロモンに与えられた知恵〕(3章)

a. ソロモンが王となったとき、彼がまず、第一に求めたことは国を治めるための知恵であった。神はこのことを喜ばれた。神はソロモンに非常に豊かな知恵と英知、そして広い心とを与えられた。

b .ダビデがソロモンに言い残したことば。Ⅰ歴代誌28章9節。「主を知ること」そして「主に仕えること」この優先順位に注意しよう。

②〔支配領域〕
ソロモンの支配領域は中東全域を含む(Ⅰ列4章21節)。以前、神がアブラハムに約束したことの成就であった(創世記15章18~21節)。

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③〔行政機関〕

a. 中央の組織
高官官僚の存在(書記、参議、軍団長、政務長官、宮内長官、役務長官、王の友脚注3(4章2~6節)。

b. 地方の組織
12の行政区域を置き、守護を配置した。それぞれの区域から官僚組織を支えるための一ヶ月分の食糧および税金を徴収するため(4章7節、22~28節)。国を支えてための財政機構の整備の必要。

④〔軍事機関〕

a. 父ダビデのおかげで外国征服のための戦いは不要であった。むしろ防備面に力が注がれた。守りの姿勢にも財政的負担が強いられる。国境沿いや国内の戦略的要地に「基地の町」を建設(9章15~19節)。これらの軍事基地に、それまでなかった戦車部隊と騎兵部隊を新設し、それを配備した(4章26節、10章26節)。

b. 的確な情報収集のために、緊急連絡用の早馬を配備し(4章28節)、これによって外敵の侵略も内乱も、うかつには起こせない。こうしてソロモンの治世は全領域にわたって平和があったと4章24節は総括的に述べている。しかしこの平和は神ご自身の守りの信仰によってというよりも世俗的な手段による平和へと傾斜して行きつつあった。

⑤〔経済機構〕
通商貿易の拡大によって膨大な富がもたらされた。脚注4
ツロの王ヒラムとの通商関係はダビデ時代からのものであったが、そこから良質の建築資材が提供された。他にも多方面にわたる海外通商貿易があった。

⑥〔建築事業〕
王宮と神殿の壮大な建設事業。王宮には13年。神殿建築には7年が費やされた。すべてフェニキヤ人の技術による。膨大な資金を必要とした。

⑦〔外交関係〕

a. 比較的良好

b. 対エジプトとしてパロの娘をめとり、政略的な婚姻関係を結んだ。

c. 対フェニキヤとしてダビデ以来のヒラム王とは友好関係を保った。


(3) ソロモン王の行政における問題点(やがて王国に分裂をもたらす様々な要因)

①〔膨大な富がもたらした慢性的な国家財政の危機〕

a. 負担は国民に
ソロモンの豪華な宮廷生活、国家的建設事業とそれを遂行するための官僚組織に払われる莫大な人件費によって、国家財政は「慢性的な支出超過」に陥っていく。そのつけはもちろん国民に回ってくる。これは今日の日本の経済状況に似ている。

b. 過酷な強制労働 
当時は征服地の住民を奴隷として強制労働させることは一般的なことであり、ソロモンもそうした。しかしソロモンはイスラエルの民をも徴用して強制労働を課したのである(4章6節、5章13~18節、9章15節、12章18節)。このことはサムエル記第一8章11節~18節でサムエルが預言した通りである。奴隷の場合はもっと過酷な労働に科せられ、多くの者が死んだ。このことが大きな不満として蓄積され、またユダ族への優遇措置と合わさって、ソロモンの死後に国を分裂させる圧力となった(12章1~4節)。ソロモンの息子レハブアムの時代になって、強制労働の監督者(役務長官)アドラムが殺されたのは、それを証明している(12章18節)。

c. 庶民の貧困
発展する商業は、貨幣経済の浸透とともに、富める者たちをさらに富ませ、貧しい者たちをさらに貧しくさせた。両階級間の格差は増した。もはやソロモンの心は庶民に向かってはいなかった。「もはや彼の心は父ダビデの心とは違って、彼の神、主と全く一つにはなっていなかった。」(11章4節) ソロモンはイスラエルの牧者のあり方を理想とする王の姿からはほど遠くなっていた。
⇒富は人の心を狂わせる。ダビデの管理能力に学ぼう。Ⅰ歴代誌29章10節以降。

  

②〔政略結婚がもたらしたツケ〕
同盟関係を結ぶ手段としての政略結婚は当時、当たり前のことであった。しかしこのことが異教的な聖所を造ることを許し(11章1~8節)。聖であるべき神の民が聖を喪失してしまったこと、それが主の怒りを引き起こした(同、9~13節)。列王記の著者はこれも王国分裂の一因であるとしている。
   


脚注2 

  • 父子相克の原因。アブシャロムの母はゲシュルの王タルタイの娘マアカであった。ダビデとの結婚は政略的なものがあった。それゆえダビデのマアカに対する態度はやや冷淡であったかもしれない。ダビデが寵愛した女性は、ヘブロン時代にはエグラ(彼女だけが妻と表記されている。Ⅰ歴代誌3章3節)、エルサレム時代にはバテ・シェバであった形跡がある。プライドの高い王女マアカとしてはダビデに対してこじれた感情を持ち、それが息子アブシャロムの父親像にも反映したとしても不思議ではない。父ダビデはアブシャロムを愛していたが、アブシャロムはその父の愛に気づかなかった。

脚注3

  • 書記とは、秘書、事務一般。参議とは、翻訳、通訳、重要事項の記録。軍団長とは、全軍の指揮・監督。政務長官とは、12の直轄地を治める。宮内長官とは、王と王族を支える人々の長。役務長官とは、国土開発、外国人労働者の統括。王の友とは、個人的な助言者。

脚注4

  • ジョン・ブライトは『イスラエル史』の中で、ソロモンの行なった国際貿易事業がどんなに王室の富を増大させたかを考証している(286~頁)。それはまさに「総合商社・ソロモン商事」の名をつけてもおかしくないほどのものであった。王室直営の産業・貿易活動の華々しさは、外国の元首たちの関心を引いた。ソロモンは父ダビデから受け継いだ王国を資本として、これを大いに活用し、王室の金庫を父の代よりも数倍豊かにした。その意味ではダビデは良き後継者を得た、と言える。しかし、ソロモンの死後、子のレハブアムが即位するや否や、反乱が起こり、王国は南北に分裂する。この分裂の直接的な原因はレハブアムの愚かな態度にあるが、真の原因はソロモンにあった。その意味ではソロモンは良き後継者とは言いがたくなる。

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