瞑想Ps36/A
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瞑想Ps36/A
- この詩篇のキー・ワードを10節「注いでください。あなたの恵みを、あなたを知る者に」としたいと思います。「注いでください」とは、岩波訳では「絶やさないで下さい」とあり、口語訳では「絶えず」、新共同訳では「常に」、そして英語ではcontinueと訳されています。ダビデが自分の上に、絶えず、常に、そのままずっと、継続して(あるいは永続して)、注がれることを期待しているものとは「あなたの恵み」です。31篇19節、32篇10節、33篇18、22節、34篇8節にもそのことが強調されていました。そして、36篇に至っては、それがたたえられ、それが継続して注がれることを祈っています。ダビデにとって必要だった神の恵みは、今日に生きる私たちにも必要だと信じます。
- 「恵み」、それは「いつくしみ」、loving-kindness とも訳されますが、このことばは一般的な親切さ、気前良さといった訳だけでは不十分です。そもそも、この「恵み」(ヘブル語のヘセド)は神と人との契約用語です。契約関係の中で用いられる用語です。詩36篇では5節と7節、そして10節にそのことばが用いられています。しかも、それぞれ異なった意味合いで用いられています。
- 5節では「あなたの恵みは天にあり」とあります。「天にある」とは堅固さをイメージさせます。揺るがないもの、確かなもの、偉大さをイメージさせます。LB訳では「揺るがぬ愛」「変わらぬ愛」と訳しています。神の人間に注がれる確かな愛、不動な、不変の愛です。堅固で、着実で、執拗な愛です。その愛は同時に激しさや熱心をも意味します。神のねたみの愛はそうした激しい、沸騰した愛の表われと言えます。ダビデはこのようなヘセドを「注いでください」と主に願っているのです。
- 7節の「あなたの恵み」は、①全き平安のイメージ、②完全な守り(防御の保障)をイメージさせます。それは心ゆくまで飲むことのできる豊かないのちの水として表わされます。LB訳は「尽きることのない愛」としています。奥深い愛、無尽蔵な愛です。それがヘセドのもつ意味です。5節、7節に言われているような契約の愛(へセド)をもって、神は私たちと関わってくださっているのです。その愛に対する私たち人間の契約の愛は、しばしば、誠実とか、忠実、忠誠、信心ということばで表わされます。しかし神の民イスラエルの歴史において明らかにされたことは、神の、人に対するヘセドに対して、人間は常にきまぐれで、不忠実であったということでした。捕囚以降の時代において、苦難の経験を通して神の律法の大切さを学んだ者たちを、ハシーディームと呼ばれますが、彼らはやがてパリサイ派となっていきます。彼らは神のヘセドに誠実さを表わすものとして、神の律法にどこまでも忠実であろうとしました。しかし、彼らもやがて神の御子イエスを十字架につけてしまうことになります。
- パリサイ派の申し子と言っても過言ではない使徒パウロはこう言っています。彼のことばは、神のへセドに対する人間の応答の限界を要約していると思います。「私は、私のうち、すなわち、私の肉のうちに善が住んでいないのを知っています。私には善(神のみこころ)をしたいという願いがいつもあるのに、それを実行することがないからです。」(ローマ7章18節) たとえ、人が神との契約に忠実であろうとしても、自分の意志と実行の間には隙間があるのです。その隙間を埋める力は私たち人間にはないのです。そのことを認めたうえで、はじめて「注いでください」という祈りが力を持ちます。「注いでください。あなたの恵みを、あなたを知る者に。」この祈りは今日に生きる私たちの祈りでもあると信じます。と同時に、私たちは、いのちの源泉、光源である主に触れることがきわめて重要なのです。
(附記)
今回は触れることが出来ませんでしたが、詩36篇にある「恵み」「真実」「義」「さばき」・・これらはすべて＜契約用語＞と言えるものです。つまり、同義語として考えることができます。宝石の輝きの強度は、光が照射する石の面がどれだけ多角的であるかに関係するように、契約用語の豊かさも、契約にあらわされた神の愛の輝きということが言えるのです。契約用語を一つ一つ味わうことも詩篇瞑想の醍醐味なのです。
