宮殿建設と青銅の細工人ヒラム
列王記の目次
07. 宮殿建設と青銅の細工人ヒラム
【聖書箇所】 7章1節~51節
はじめに
- 7章にはソロモンの宮殿建設とその概要、および、青銅の細工人であるツロのヒラムが製作した物についての記録が記されています。
1. ソロモン宮殿の概要
- 7年におよぶ神殿建設の後、その神殿に隣接するソロモン王の宮殿の建設に関する記述が1~12節に記されています。
- 宮殿は完成までに13年間かかっています。それは神殿が一つの建物であるのに対して、宮殿には三つの大きな建造物からなっていたために神殿以上の年月がかかったと言えます。
- 宮殿の概要としては、以下の三つの建造物から成っています。
(1) 「レバノンの森の宮殿」
(2) 「さばきをするための王座の広間」(さはぎの広間)
(3) 「王の住居」、および「ソロモンがめとったパロの娘の住居」
- これらの建造物の目的は記されていませんが、多くの国からの来賓わ迎える迎賓館、政治を行う政所、そして王の住居、そうした機能をまかなう宮殿だったと思われます。
- 宮殿と神殿の造りに関して異なるところはその材料です。神殿の場合、高価な石、木材、青銅が使われましたが、宮殿にはない「金」が至る所ふんだんに使われています。一方、宮殿には金はなく、高価な石、杉材、青銅から作られていました。「金」は明確に神のものとして聖別されているのを見ます。
- 王の住居とバロの娘のための住居があります。これは何を意味しているのでしょうか。ソロモンは政略結婚による平和路線を取りました。そのたるに多くの妻を持つことになりますが、ここでは「場路の娘」であるひとりの妻のために家を建てています。神の民イスラエルと異邦人が神の支配のもとに共にあることを予表しているのかもしれません。
2. ツロの青銅の専門家ヒラムの功績
- 面白いことに、神殿や宮殿建設のために大きく貢献したツロの王である「ヒラム」と、青銅工芸の専門家であるツロの「ヒラム」とは別人です。聖書は後者の「ヒラム」について、「青銅の細工物全般に関する知恵と、英知と、知識とに満ちていた」と記しています。
- ヒラムは神殿の本堂に玄関広間に立てた青銅の二本の柱に名前をつけています。その高さは8メートル程です。右側に立てた柱を「ヤキン」(יָכִין)、左側に立てた柱を「ボアズ」(בֹּעַז)とそれぞれ名づけました(21節)。名尾耕作氏の「ヘブル語大辞典」によれば、「ヤキン」」(יָכִין)は、「ヤーヴィーン」と読み変えるならば、その基本形は「ビーン」(בִּין)であることを記しています。動詞「ビーン」(בִּין)は「わきまえる」とか、「識別力がある」という意味です。ミルトス社の「ヘブライ語聖書対訳」では、その脚注に「ヤキン」」יָכִיןの原型を「クーン」(כּוּן)であるとしています。「クーン」は「堅く立てる」「確立する」という意味です。
- 一方の「ボアズ」は「~のうちに」という前置詞の「べ」(בּ)と「力」を表わす「オズ」(עֹז)からなっている語彙です。
- 「ヤキン」と「ボアズ」で「英知と能力」、あるいは「永続と能力」とも考えることができます。いずれに解釈したとしても、ソロモンの神殿にふさわしい名前と言えます。
2012.9.12
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