ソロモンによる治世の特徴と組織的構図の概要
列王記の目次
04. ソロモンによる治世の特徴と組織的構図の概要
【聖書箇所】 4章1節~34節
はじめに
- 3章では、ソロモンに与えられた非凡な知恵がどのようにして与えられたか、そのプロセスについて記されていました。4章ではソロモン時代の特徴とその政治的機構(組織)の構図について記されています。その概要をここで把握しておく必要があります。
- ダビデの治世では常に周辺諸国との戦いがありました。その戦いにダビデは勝利して国の基盤を作り上げたということができます。したがって、ダビデの後継者となったソロモンの時代では周辺諸国との戦いはなく、王であるソロモン(שְׁלֹמֹה)の名にふさわしい、「平和」(שָׁלוֹם)な時代を迎えることになります。ダビデとソロモンは性格的にも、また時代環境においてそれぞれ異なります。それゆえ取り組むべき課題もまた異なっています。ソロモンの時代はイスラエルの歴史において、「パクス・ロマーナ」(武力をもって築かれた空前のローマの繁栄と平和)ならぬ、最も平和な時代を迎えました。そのことを表現するキーワードは「平和と繁栄」です。
1. ソロモン時代の治世区域
- ソロモンの時代の治世地域は、「大河(ユーフラテス川のこと)からペリシテの地、さらには、エジプトの国境に至るすべての王国を支配した。」(21節)とあります。イスラエルの歴史において最大の領土を支配しています。ソロモンの治世において、拡大した領土からの貢物があり、それゆえの物質的豊かさは膨大なものでした。
2. ソロモン時代の平和とその維持政策
- 戦争のない平和な時代が訪れ、ソロモンの治世中はダンからベエル・シェバまで、イスラエルとユダの人々はみな「安心して」(「ラーヴェタハ」לָבֶטַח)暮らすことができたようです(25節)。
- しかしそうした平和を維持するために、「ソロモンは戦車用の馬屋4万、騎兵1万2千を持っていた」(26節)とあります。やがてソロモンは防衛上重要な場所に軍事施設を建設していきます。また徴兵制度によって軍備を増強していきます。強制労働も強いられるようになります。平和の維持はやがて高い代価費を要するようになっていくのです。軍事施設のみならず、さらには壮大な神殿の建設と王宮の建設にも莫大な費用を要します。そして、それらの費用は実際には民が納める税金によって賄われることになります。こうした流れの中に、ダビデとは異なるソロモンの治世の世俗化の一面を見ることができます。
3. ソロモンを支えた高官たちの存在
- ソロモンの治世の特徴として、ソロモンを支えていくためのごく限られた高官たちがおります。その11人の名簿が4章に記されていますが、それはそれぞれの政治的領域のいわば専門スタッフ、あるいは官僚ともいうべき存在です。それはユダ族の者たちでした。
(高官たちの役職名のみを記すならば、以下のようになります)
1. 書記(2名)※ 2. 参議(1名)、3. 軍団長(1名)、4.祭司(4名)、5.政務長官(1名)、6.宮内長官(1名)、7.役務長官(1名)、8. 役職としての「友」(1名)
4. 中央集権的機構を支えた12人の「守護」(知事)たち
- これらの11人の官僚の下にさらに多くの官僚たちの存在がいることはいうまでもありません。そうした機構を経済的に支えたのが地方にいる12の「守護」(あるいは「知事」)たちでした。彼らは中央集権機構の経済的をサポートするために、それぞれが1年分の必要のひと月分を分担したようです。地方が中央を支えるという行政機構が確立していきます。
5. ソロモンの政治機構から学ぶこと
- ソロモンの治世は戦後の日本に似ている平和と繁栄を享受していくそのプロセスでなにかがねじれていくのです。ソロモンの誇った平和と繁栄もやがてその運命にあったことを念頭に置く必要があるように思います。
※
宮廷には「書記」と呼ばれる王の年代記(業績を記したもの)を書く者がいました。ダビデには書記が1名(Ⅱサムエル8:17, 20:25)、ソロモンには2名いたことが記されています(Ⅰ列王記4:3)。おそらく歴史書がまとめられるときには、そうした書記の記したものが材料として使われたと思われます。Ⅰ列王11:41の「ソロモンの業績の書」等を参照。
2012.8.31
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