隠れた神による逆転劇と自滅の論理
ネヘミヤ記、エステル記の目次
6. 隠れた神による逆転劇と自滅の論理
【聖書箇所】エステル記6章1節~7章10節
ベレーシート
- エステル記6~7章には、ユダヤ人の迫害と滅亡の陰謀が王に知られることで、事態は逆転し、陰謀を図ったハマンは自滅してしまうという実に痛快極まる話です。
- 本書には「神」、あるいは「主」ということばが出てきません。しかしそのことばが使われていなくても、十分に神が働いておられることが分かります。
- 「ヤーヴォー、ハンメレフ、ヴェハーマーン、ハッヨーム」このことばは、王妃エステルが王とハマンを自分が主催する宴会に招いたことばですが、そのことばの中に、主の名前を意味する「神聖四文字」(יהוה)が隠されています。エステルはそのことを意識してはいないでしょう。しかしながら、このエステルの招きのことばの中に神のドラマが隠されていたのです。
1. 神のドラマの目的は神の栄光の現われ
- 神のドラマの目的は、神の栄光を現わす最高の表現です。そのドラマの中に、人間の創造、堕罪、エデンからの追放、イスラエルの民の選び、王国の崩壊とバビロン捕囚、ユダヤ人根絶やし計画といった事柄が組み込められいています。神は、静的な存在ではなく、常に動的な存在であり、またそのような働きをなしておられます。神と人とのかかわりのドラマのはじめと終わりです。そこには神の栄光の顕現という目的があります。
- ヨブ記にあるヨブの苦難には、そのドラマの裏舞台が記されています。しかし人間にはその裏の舞台が見えないために、ヨブに起った悲惨な出来事について、ヨブの友人たちがその原因を探ろうとして、ああでもない、こうでもないと論じます。ヨブも彼に対して自分の弁を宣べますが、最後で、神はヨブには知らないことが多くあることを示されます。ヨブはドラマの舞台裏を知らないことを認めたとき、はじめてその苦難から救い出されます。
- このように、私たち人間には、また個人にとっても、知らされていない神のドラマの裏側があることを認める必要があります。表面的に神が登場していなくても、それも神のドラマの一面なのです。エステル記6~7章は、まさに神の奇しきみわざ(The wonder of His hands)を見ることが出来ます。
2. ごく日常的な営みの中にも神は働いておられる
- エステル記6章の冒頭には「その夜、王は眠れなかった」とあります。
眠れないことがあるというのは、ごく普通の日常的な事柄です。ところが、そのごく日常的な事柄の中に神のドラマが、人間的には想定外のピースがあったのです。
- 「その夜に」(「バライラ―・ハッフー」בַּלַּיְלָה הַהוּא)とあるように、「その夜」は特別なドラマの転換点です。「その夜」の出来事がなかったとしたら、ハマンの陰謀は阻止することはできなかったかもしれません。想定外の展開なのです。しかも「その夜」は、王妃エステルが全く参与できない事柄でした。
- 「その夜に」なにが起こったのか。「王は眠れなかった」のです。「眠れない」という表現をヘブル語では「眠りが逃げていく」という表現をします。彼らが王の命令で年代記を読んでいると、王を暗殺しようとする企てをモルデカイが報告したと書いているのを発見したのです。王はそのために自分が何もしていないことを知りました。
- そこにハマンがモルデカイを殺すために上奏しようと王のところにやって来ました。まさに絶妙のタイミングです。王はハマンに「王が栄誉を与えたいと思う者に対してどうしたらよかろう」と打診します。するとハマンは、「自分以外に王が栄誉を与えたいと思われる者はいないはずだ」と聖なる誤解をしながら、実に具体的なすばらしい待遇を王に進言しました。
- 王はそれを「モルデカイにしなさい」と命じ、さらに「あなたの言ったことを一つもたがえてはならない」と付け加えました。まさに、完全なる逆転劇が起ったのです。
3. 自滅の論理
- 詩篇の中には、しばしば「自滅の論理」があります。神に敵対する者が神にある者たちに戦いを挑んだり、悪を謀ったりする場合は、それを謀る者の方が自分のしかけた罠にはまることを意味します。たとえば詩篇58篇がその一つです。悪者は必ず自分の仕掛けた罠に陥ってしまうことが語られています。⇒「詩篇58篇に見る自滅の論理」
- ハマンは王の命令ひとつで、モルデカイのために用いるはずだった柱に掛けられてしまいました。モルデカイはハマンの家のみならず、彼に与えられていたその栄誉さえも受ける者となったのです。
- まさに、自分にひれ伏さないモルデカイを殺そうと謀ったハマンの策略に、ハマン自身がはまったのです。「ハマンがハマった」のです(⇐シャレ)。この出来事が、ユダヤ教の「プリムの祭り」の起源となったのです。
2013.12.3
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