永遠に変わらぬ愛をもってあなたをあわれむ
52. 永遠に変わらぬ愛をもってあなたをあわれむ
【聖書箇所】54章1~17節
ベレーシート
- イザヤ書52章13節~53章12節の第4の「主のしもべの歌」が挿入されたために、中断していた52章の「シオンに対する主の慰め」のメッセージが、再び、54章において語られます。ここで語られている預言は、メシアの再臨によって世界が統治されるときに、イスラエルの民に実現します。それはすでに「主のしもべ」によって贖われているからですが、そのことにイスラエルの民が気づいて神に立ち返るのが、キリスト再臨の直前だからです。
- 私たちがしばしば混乱するのは、「神とイスラエルの民との関係」と「キリストと教会との関係」です。神とイスラエとの関係は「夫婦関係」であり、キリストと教会との関係は結婚が予定されている「花婿」と「花嫁」の関係です。キリストの空中携挙によって、花婿と花嫁は結婚します。そして、キリストの地上再臨のとき婚宴が行われます。夫婦関係にある神とイスラエルの民(ユダヤ人)はキリストの再臨の直前に夫婦としての正しい関係を取り戻すのです。ですから、これから夫婦となる花婿(キリスト)と花嫁(教会)の関係を混同してはなりません。この違いが正しく理解されないので、神のマスタープランの理解が混乱しているのです。
1. 子を産まない不妊の女よ、喜び歌え
(1) 54章の「歓声の呼びかけ」(命令)
- 1節は三つの動詞によって呼びかけられています。「喜び歌え」(「ラーナン」רָנַן)、「(喜びの歌声を)あげよ」(「パーツァハ」פָּצַח)、そして「叫べ」(「ツァーハル」צָהַל)の命令形です。特に、「パーツァハ」(פָּצַח)はイザヤ書特愛用語です(14:7/44:23/49:13, 13/52:9/54:1/55:12)。「ツァーハル」は馬がいななくように大声で、歓声を上げることを意味します。こうした「喜び」を伴う「歌」「声」「叫び」が出て来るときは、ほぼ決まってメシア王国(千年王国)について語られていると考えて間違いありません。詩篇の中でもそうした歓声の語彙に出会う箇所は、その視点から書かれています。
(2) 誰に命じているのか
- 54章の呼びかけの命令形はすべて女性単数に対してです。つまり、呼びかけられているのは、「女」にたとえられた「エルサレム」、あるいは「シオン」です。ここでは「子を産まない不妊の女」「産みの苦しみを知らない女」「夫に捨てられた女」「心に悲しみのある女」と表現されています。
- ヘブル語では「町」は女性名詞です。つまり「不妊の女」、および「夫に捨てられた女」とは廃墟と化したエルサレムのたとえであり、「夫のある女」とはエルサレム滅亡以前の状態を表わすたとえだと解釈します。
(3) 歓声の命令の根拠
① 夫に捨てられた女の子どもは、夫のある女の子どもより多くなるから
- ここで「夫に捨てられた女」とは二つの意味に解釈できます。一つは、B.C.586年にバビロンによって陥落したエルサレムのこと。「夫のある女」とは陥落以前のエルサレムの状態のこと。このように解釈すると、陥落してそこから捕囚となって連れて行かれた子孫は、以前よりも多くの子を得るということになります。確かに、捕囚から帰還した人々の数は捕囚となった人々の数の約4倍になっていました。
- もうひとつの解釈は、「女」を「イスラエル」として解釈し、メシア王国において新しくされた神の民と預言的に解釈することもできます。そのように解釈するならば、「夫に捨てられた女の子ども」とは神の民イスラエルのことであり、「夫のある女の子ども」とは「異邦人」となります。イェシュアの初臨の後ではユダヤ人たちが世界各地への離散の民(ディアスポラ)となりました。それは一見、神に「見捨てられた」ように見えます。しかし、主なる神は「大きなあわれみをもって、あなたを集める」(54:7)という驚くべきことが記されています。つまりメシア王国においては、神の民が世界中から集められることによって、その数は異邦人の数よりも必然的に多くなると考えられます。
- また、大患難を通過してメシア王国に入ったユダヤ人たちは、朽ちないからだを与えられていないゆえに、これまで通り子を産むため、千年の期間において数が爆発的に増え広がるとも考えられます。それゆえに、「あなたの天幕の場所を広げ、あなたの住まいの幕を惜しみなく張り伸ばし、綱を長くし、鉄のくいを強固にせよ。」(54:2)とあり、神の民が「増え広がる」ことが預言されています。
- しかも、「あなたの子孫は、国々を所有し、荒れ果てた町々を人の住む所とする」とあります(3節)。メシア王国においては、イスラエルの民は地上のすべての民の中で支配的な位置を回復します。かつてのように、やもめ時代のそしりを受けることがなく、恥を見ることのない民とされるからです(4節)。
② 神の愛は永遠に不変であるゆえに
【新改訳改訂第3版】イザヤ書54章6~8節、10節
6 「【主】は、あなたを、夫に捨てられた、心に悲しみのある女と呼んだが、若い時の妻をどうして見捨てられようか」とあなたの神は仰せられる。
7 「わたしはほんのしばらくの間、あなたを見捨てたが、大きなあわれみをもって、あなたを集める(קָבַץ)。
8 怒りがあふれて、ほんのしばらく、わたしの顔をあなたから隠したが、永遠に変わらぬ愛をもって、あなたをあわれむ」とあなたを贖う【主】は仰せられる。10 たとい山々が移り、丘が動いても、わたしの変わらぬ愛はあなたから移らず、わたしの平和の契約は動かない」とあなたをあわれむ【主】は仰せられる。
- 主の妻であるイスラエルの民を世界中から集めるのは、「永遠に変わらない神の愛」(8節)、「変わらぬ愛」(10節)のゆえです。この愛をヘブル語では「ヘセド」(חֶסֶד)で表わします。「ヘセド」とは「契約における確固とした愛」のことです。英語では以下の訳語が使われています。
constant loveー「不変の愛」
steadfast love ー「確固とした愛」
unfailing loveー「尽きることのない愛、裏切ることのない愛」
loving-kindnessー「愛に満ちた親切」
2. 神の都エルサレムの再建
- 54章1~10節が、夫婦関係の回復(特に、妻であるイスラエルの民の回復)の預言であるならば、11節以降は神と民が共に住む場所としての都の再建(回復)の預言と言えます。
(1) シオンの外的栄光
【新改訳改訂第3版】イザヤ書54章11~12節
11 「苦しめられ、もてあそばれて、慰められなかった女よ。見よ。わたしはあなたの石をアンチモニーでおおい、サファイヤであなたの基を定め、
12 あなたの塔をルビーにし、あなたの門を紅玉にし、あなたの境をすべて宝石にする。
●回復されたシオン(地上のエルサレムの栄光)の美しさが「アンチモニー」「サファイヤ」「ルビー」「紅玉」といった宝石の比喩で表されています。
●「アンチモニー」(へブル語は「プーフ」פּוּךְ)とは、アイシャドーに使われる目のふちに塗る黒い粉末のことです。黒色塗料として宮の建設のために用いられたようです(Ⅰ歴代誌29:2)
(2) シオンの内的栄光
【新改訳改訂第3版】イザヤ書54章13~14
13 あなたの子どもたちはみな、【主】の教えを受け、あなたの子どもたちには、豊かな平安がある。
14 あなたは義によって堅く立ち、しいたげから遠ざかれ。恐れることはない。恐れから遠ざかれ。それが近づくことはない。
●エルサレムに住む者たちはみな、王なるメシアから直接に教えと導きを受ける者となります。御霊を豊かに受けることで、想像を絶する神の知恵と知識を持ち、神の祝福の総称である豊かなシャーロームがあります。また、神の都エルサレムの美しさと栄光とその安定さは、義という土台の上に堅く立てられるのです。
2014.11.12
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