サウルの王権失脚の発芽
サムエル記の目次
11. サウルの王権失脚の発芽
【聖書箇所】 13章1節~14章52節
はじめに
- サムエル記9章~11章がサウルの光の部分とすれば、13章~15章はサウルの闇の部分です。サウルは一生の間、ペリシテ人の戦いましたが、その中の一つのエピソードの中に、サウルの王権失墜の発芽が見られる出来事を記しています。
1. 「あなたの王国は立たない」との宣告(13章)
- サウルの息子ヨナタンがペリシテ人の守備隊長を打ち殺したことによってペリシテ人の恨みを買い、ペリシテとの戦いを余儀なくされます。ペリシテ軍は戦車3万、騎兵6千、それに海辺の砂のような数の兵士がミクマスに陣を張りました。それに対してイスラエルはサウルに付く者が2千、ヨナタンに付く者1千のあわせて3千の戦力でした。そのためにイスラエルの人々は自分たちが不利であることを知って、隠れる者、逃げる者、散って行こうとする者が続出で、結局、サウルと共に残ったのはおおよそ600人でした。
- 13章において重要なことは、こうした形勢不利な戦いにおいて、サウルがサムエルを待つことができずに、神への嘆願を意味する全焼のいけにえをささげたことです。ささげ終わったところにサムエルがやって来て、サウルに言うことには「あなたはなんということをしたのか。・・・あなたの神、主が命じた命令を守らなかった。・・あなたの王国は立たない。」という厳しい宣告でした(13:11, 13, 14)。
- サウルはサムエルの「あなたはなんということをしたのか」という問いに対して、自己弁護しています。「民が私から離れ去って行こうとし、また、あなたも定められた日にお見えにならず、ペリシテ人がミクマスに集まったのを見たからです。」と。この自己弁護には、この戦いが「主の戦い」であるということを忘れ、不安と恐れのゆえの行動であったと真意が欠落しています。
- サウルがしたことは、不安と恐れのゆえに、人間的手段をもって民心をつなぎとめようとしたことでした。不安と恐れがどうして王位を退かせられる理由となるのか。それは神への信頼を無にすることだからです。ここに神に対するサウルの欠陥がありました。これはイスラエルの王制の理念においてきわめて大きな欠陥だったのです。
2. さらなる失脚の発芽(14章)
- 「あなたの王国は立たない」と宣告されたサウル。彼が王として選ばれたにもかかわらず、イスラエルの王としての資格の決定的欠陥の現われが14章においてさらに明らかにされていきます。
- 以下、サウルの失脚の要因をあげてみたいと思います。
(1) 神のみこころを伺うことにおけるお粗末さ
① 14:3に「アヒヤが、エポデを持っていた。」とあります。それは神のみこころを伺うために立てられた祭司が着る服です。サウルの息子であるヨナタンとその道具持ちがペリシテ陣営を撹乱されて形勢を逆転させたことを知ったサウルは祭司のアヒヤに言います。14:18「エポデを持って来なさい」(原文では「神の箱」となっていますが、神の箱は当時、キルヤテ・エアリムにありました。ここはLXX訳によって「エポデ」と訳しています。ちなみに、新改訳の第二版では「エポデ」と訳されていますが、改定第三版では「神の箱」となっています。)
② ところが形勢がきわめて明白になったはっきりとしたと判断したとき、アヒヤに「もう手をしまいない」(14:19)と指示します。つまり、もう神の伺いを立てる必要がなくなったということを意味します。
③ 勝利の後に、サウルは初めて主のために祭壇を築きます。その後で、サウルは「夜、ペリシテ人を追って下り、明け方までに彼らをかすめ奪い、ひとりも残しておくまい」と言った時、民たちはそれに同意しますが、祭司のアヒヤは「ここで、われわれは神の前に出ましょう」と提言し、神の伺いを立てようとしますが、祭司のアヒヤが提言しなければ神のみこころを伺おうとしないところにサウルの欠陥を見ることができます。
(2) 権威の誇示
① ヨナタンは父が民に「敵に報復するまでは食べ物を口にしない」と誓わせた誓約を知らず、蜜を口にして活力を得ました。しかしその誓約を民から聞かされた時も、「父は民を悩ませている」と父の理不尽なやり方に疑問を抱いていました(14:24~30)。
② 後にヨナタンが蜜を味わった事実を父サウルが知った時、「おまえは必ず死ななければならない」と言います。ところが民はサウル王に「このような大勝利をイスラエルにもたらしたヨナタンが死ななければならないのですか。絶対にそんなことはありません。主は生きておられます。‥・神が共におられたので、あの方(ヨナタン)は、きょう、これをなさったのです。」と嘆願し、ヨナタンを死から救いました。民たちもサウル王の権威を誇示しようとする理不尽な考え方に抗議したのです。サウルのこの理不尽さは、妬みのゆえに、やがてダビデをどこまでも執拗に追いかけ回すという行為に現われてきます。
2012.06.08
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