ダビデの友フシャイの功績
サムエル記の目次
42. ダビデの友フシャイの功績
【聖書箇所】 16章15節~17章29節
はじめに
- 詩篇には「自滅の論理」というテーマが存在していて、悪者は必ず自分の仕掛けた罠に陥ってしまうことが語られています。たとえば58篇はその一つです。自滅の論理が具体的にどのように実現するか、そのプロセスを描いているのが歴史書です。
- Ⅱサムエル記16章~17章でアブシャロムを自滅へと導いていく立役者はだれかといえば、「ダビデの友であるフシャイ」です。もっとも、その背後に神の支配と導きがあったことは言うまでもありません。
- 16章20節に、アブシャロムがアヒトフェルに「あなたがたは相談して、われわれはどうしたらようか、意見を述べなさい」と言っています。「あなたがた」とは「アヒトフェル」と、もう一人「フシャイ」のことを意味します。なぜアブシャロムはフシャイをいともたやすく自分の顧問として抜擢したのか。なぜアブシャロムはフシャイの進言をアヒトフェルよりも優れているとして採用したのか。ここに焦点を当てることによって、「自滅の論理」の構造(プロセス)が見えてくるように思います。
1. なぜ、アブシャロムはフシャイをいともたやすく自分の顧問として抜擢したのか
(1) ダビデのフシャイに対する進言
- そもそも、フシャイという人物は「ダビデの友」でした。ダビデはこのフシャイにエルサレムに戻って、アブシャロムに「王よ。私はあなたのしもべになります。これまであなたの父上のしもべであったように、今、私はあなたのしもべになります。」というなら、あなたは私のためにアヒトアェルの助言を打ち壊すことになるという先見の明をもって、彼をエルサレムに残るよう進言します。
(2) アブシャロムに対するフシャイのパフォーマンス
- 16章16~19節に「王さま、ばんざい。王さま。ばんざい」と叫ぶフシャイのアブシャロムに対するパフォーマンスを見ることができます。「これが、あなたへの友への忠誠のあらわれなのか。なぜ、あなたは、あなたの友といっしょに行かなかったのか。」とアブシャロムはフシャイに尋ねたとき、フシャイは「主と、この民、イスラエルのすべての人々とが選んだ方に私はつき、その方といっしょにいたいのです。また、私はだれに仕えるべきでしょう。私の友の子に仕えるべきではありませんか。私は父上に仕えたように、あなたにもお仕えいたします。」と心にもないことパフォーマンスしたのです。
- なんら特別な功績もないフシャイが、なぜやすやすとアブシャロムの顧問となり得たのか。それはひとえに「ダビデの友」と称されたフシャイがアブシャロムを慕って来たことが、彼のプライドを十分に満足させたからにほかなりません。
2. なぜ、アブシャロムはフシャイの進言をアヒトフェルよりも優れているとして採用したのか
(1) アヒトフェルの進言
- アヒトフェルの顧問としての評価が16章23節に記されていますが、そこには「人が神のことばを伺って得ることばのようであった」とあります。その進言のすばらしさはダビデも認めていました。それゆえ、アヒトフェルが自分を裏切ってアブシャロムの側についたと知ったとき、ダビデは恐れたのです。そして「主よ。どうかアヒトフェルの助言を愚かなものにしてください。」と祈りました。しかしアヒトフェルの助言は優れたものでした。
- 最初の助言は、ダビデが王宮に残したそばめたちのところに入ることでした。この行為が意図することは、アブシャロムが新しい王として、すべてのものを受け継いだ王であることを公に示すことでした。つまり、それはダビデの時代はすでに終結したことを印象づける行為でした。
- 次の助言は、ダビデを殺すには今しかないという判断で、自分に12,000人の兵を与えてほしいということと、奇襲によってダビデ一人を殺せばすべてうまく収まるというものでした。この進言はアブシャロムだけでなく、イスラエルの長老たちも気に入りました。ところが、アブシャロムはもうひとりの顧問であるフシャイの助言も聞いてみようと言い出したのです。
(2) フシャイの進言
- フシャイの助言は、まず、アヒトフェルの助言は良くないと批判したうえで、アヒトフェルが考えるようにはうまく運ばないと断言します。その上で、アブシャロム自ら総指揮官となってイスラエルの全軍を総動員させて、ダビデとその軍を全滅させるのが良いと進言しました。結果的に、このフシャイの助言が採用されました。
- フシャイの助言はあくまでもダビデが逃亡できる時間稼ぎのためのものでした。なぜ、フシャイの助言が採用されたのでしょうか。これはフシャイがいともたやすく顧問とされたことと関係します。いずれの場合もある同じ事柄が見えてきます。その「ある同じ事柄」とは、アブシャロムの自尊心、プライドを満足させているということです。アブシャロムの最も弱い部分に触れているという事実です。ここに、やがてアブシャロムが自滅の道を突き進んでいく要因があります。
3. ダビデとアブシャロムとの決定的な違い
- ダビデの周囲には、ダビデのためにいのちをかける人たちが多くいました。それは苦楽を共に過ごした時期、ダビデの戦いの実績やダビデの人柄を見てきた人々がいたことです。フシャイしかり、二人の祭司たちとその息子たち、そして無名な人々(女性も含めて)です。しかしアブシャロムの周囲にいるのは、彼とともに苦楽を共にした者たちではなく、心を盗まれてうまく取り込まれた人々であり、いわば烏合の衆にすぎませんでした。その脆さは時間の経過とともに明らかにされていきます。全く対照的です。
- 最高の知恵者と言われたアヒトフェルの心が折れて自殺したのは、彼が自分の語る助言に、いわば自分の政治生命をかけていたからと言えます。それが採用されなかったということは自分の存在が否定されたことと同じでした。ことのなりゆきの結末を見ずに、自分の将来を悟った誤算ゆえの自殺もプライドの問題でした。
2012.8.11
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