ダビデの長子アムノンが蒔いた欲情の種
サムエル記の目次
38. ダビデの長子アムノンが蒔いた欲情の種
【聖書箇所】13章1節~33節
はじめに
- 13章は、ひとりの人間の悲しき性(欲情)が、ダビデ家の中に破滅の連鎖を生み出していくという最初の出来事が記されています。
- ダビデの妻たち、および息子たちの系図を頭に入れます。
ダビデの家族
(「新聖書辞典」いのちのことば社より)
1. ダビデの長子アムノンが犯した罪
- アムノンはダビデの長子で、ダビデの王位後継者順位としては筆頭にある者でした。しかし、その彼が犯した罪は兄弟間の中に罪の連鎖をもたらしました。13章1~14節には、異母兄弟アブシャロムの美しい妹であるタマルに対する「恋わずらい」からはじまって、彼女を「力づくで、はずしかめて、寝た」ことに至るまでのいきさつが記されています。ところがその直後、アムノンは、ひどい憎しみにかられて彼女をきらった。その憎しみは、彼がいだいた恋よりもひどかった」とあります。力づくで、自分の欲情を果たした後のアムノンの取った態度は、自分の非を隠す自己中心的なものでした。そこには真の愛のかけらは何一つありません。凌辱されたタマルは「頭に灰をかぶり、着ていた長服を裂き、手を頭に置いて、歩きながら声を上げて泣いていた」(13:19)とあります。これは兄に対する非難と抗議以上に、自分へのとむらいを意味しています。タマルはこのあと、実の兄アブシャロムの家で、「ひとりわびしく暮らし」続けることとなり、一生涯、幸せな結婚の希望を喪失させられたのです。
- そもそもダビデの長子アムノンは甘やかされ、わがままに育ったようです。わがままな人間は孤独で、愛することも愛されることも知らずに、ましてや親しい友は作ることが出来ません。ダビデ王は、事の一部始終を聞いて激しく怒っただけで、アムノンに対する罰は何一つ与えていません。ここにもダビデのアムノンに対する甘さがよく表されています。しかしタマルの兄であるアブシャロムは、妹が辱められたことで、アムノンを憎むようになったのです。このアンビバレントな感情はアムノンが真の愛情を知らずに育ってきたことを物語っています。
2. タマルの兄アブシャロムの周到な復讐
- アブシャロムはアムノンに対して復讐する時期を用意周到にじっとひそかに待っていたようです。満2年経ってから、アブシャロムは「羊の毛の刈り取りの祝い」をするということで、父ダビデの息子たち全員だけでなく、父ダビデとその家来たちも一緒に招待します。父ダビデはこの招きを断りながらも、アブシャロムを祝福しました。アブシャロムはその祝いの席で部下に命じてアムノンを殺害しました。そのあとアブシャロムは母方の故郷であるゲシェルに逃亡しました。聖書はダビデもその息子たちも、そしてダビデの家来たちもみな「非常に激しく泣いた」と記しています(13:36)。「泣いた」という動詞「バーハー」(בָּכָה)は、かつてアブラハムが最愛の妻サラを失った時に「泣いた」ことばと同じことばです。
- アムノンの死はダビデにとって悲しみの日々となりました。父ダビデは長子のアムノンを失っただけではありません。アムノンの蒔いた種はやがてアブシャムをも失わせる結果となるのです。
- 13章では神は全く沈黙しています。
2012.8.7
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